この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

千夜千冊と編集学校が始まって2年程経ち、松岡正剛校長の外部セミナー後に編工研等のメンバーと食事に出かけたときのこと。当時新銀行立上げ等の企画で激務だった仕事や編集学校のメールに埋もれて、なかなか「千夜千冊」を読む時間が取れないとこぼしたときに、松岡校長から投げられた一言は衝撃だった。
「ちゃんと原本を読まなきゃだめだよ。」
以来20数年間、僕にとって「千夜千冊」は、寝食を削って、人生の最も多くの時間を費やす「核」となってきた。
「山に登るのはそこに山があるからだ」という言葉があるが、千夜千冊は、山といっても古今東西、生老病死、人文・自然・社会・小説を網羅する、とてつもない霊峰で、その頂きは霞んで見えない。ましてや原本を読み進めるなんて、到底考えも及ばないことなのだが、松岡校長の一言がきっかけで、その頂きに挑むこととなった。
それでも読み始めた当初は、千夜千冊は文字通り千夜で終了するものだと思っていたし、既に読み終えた本もあるだろうからと、安易に考えていたのだが、直ぐにその考えが誤りだったことに気が付く。
なにしろ、古代から続く難解な哲学や宗教、苦手な物理や数学、20冊以上になる小説等々、一夜といっても一筋縄ではいかない本が並んでいたからだ。
そこに追い打ちをかける事件が起こる。松岡校長が千夜千冊を千夜で終わらせず、千一夜からそのまま続けていったのだ。
結局、当初予定通り千夜までの原本を読むことにしたことで、ようやく今年95%を超えるところまできて、目標の頂きがおぼろげながら見えてきたところだった。
松岡さん。
毎年年末に、千夜千冊の原本をどこまで読み進めたかを一覧表にして報告すると、嬉しそうに目を細めて、もうすぐだね、と褒めてくれた松岡校長。
何とか間に合わせようとしたけど、少し残ってしまいました。
原本を読むだけでもこれだけ大変なのに、その本の本質となる部分をズバッと切り込んで書いてある千夜千冊の凄さとまぶしさ。
これからは千一夜以降の原本も、少しずつですが読み進めることとします。
イシス編集学校
第一期 師範代 山田 仁
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。