地球を止めてくれ! なぜ、おりられないのか?【ニッチも冊師も☆中原洋子】

2024/03/01(金)12:00
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 先日、楽譜を整理していたら、映画「カサブランカ」のテーマ曲“As time goes by”の譜面が出てきた。 

 映画とともに日本では爆発的にヒットした。リクエストがかかることも多く、私ももちろんレパートリーに入れていた。

 

左:1962年公開時映画パンフレット「カサブランカ」

 

 ところで、この歌のヴァース(導入部)にはアインシュタインが出てくる。

This day and age we’re living in
Gives cause for apprehension
With speed and new invention
And things like third dimension.
Yet we get a trifle weary
With Mr. Einstein’s theory

 

私たちが生きるこの時代は不安のタネでいっぱいだ。
スピードとか新しい発明とか、三次元の何やらかんやらとか、
アインシュタインの理論にも少々うんざりだ。
地に足をつけて、時にはリラックスして、緊張を和らげなくてはね。

 実はこの歌、映画「カサブランカ」のために作られた歌ではない。1931年に制作された”Everybody’s Welcome“というミュージカルの挿入歌だったのである。あまり時代に振り回されすぎないように、大事なものを見失わないようにと語りかける。つまり、この頃から人類はすでに情報の多さにお疲れ気味だったのだ。

 ちなみに『情報の歴史』の1930年のページを開いてみると、ケインズ経済学が席巻する自由競争時代の開幕、とあった。残念ながら、人類は時代に振り回されっぱなしのまま現在まで来てしまったのである。幕がおりるのがいつなのか、いや、おりる日が来るのかどうかもわからない。

 

 多読ジムの来シーズン、Season18 春のエディション読みは『資本主義問題』だ。
 「なぜおりられないのか」という帯の言葉に、ふと思い出したのが、Stop the world! I want to get off(地球を止めてくれ ― 俺はおりたいんだ)”というミュージカルである。内容は家族をほったらかしにして仕事に大成功した男が、妻も子供も誰もいない晩年になって、初めて一番大事なものが何なのかかに気がつくというストーリーで、1978年にはサミー・デイビス・Jrが主演した。

 

左:Stop the World: I Want to Get Off/Richmond Organization

右:千夜千冊エディション 資本主義問題/角川ソフィア文庫

 

 興行としてはあまり成功したとは言えず、ひと月ほどで打ち切られたが、サミーはこのミュージカルがお気に入りだったようで、ディナーショーなどでは、必ずこのミュージカルナンバーのメドレーをプログラムの最後に入れていた。そして、このメドレーの前にお得意の「物真似」を入れるのだが、その選曲がなんと”As time goes by“なのである。

 何と編集的なサミー! Season18 春の編集的先達は彼に決まりだ、ブラボー!

 

左:ベスト・オブ・サミー・デイヴィス・ジュニア・ライブ/Eagle Rock Ent

右:サミー・デイビス・ジュニア『ハリウッドをカバンにつめて』/早川書房

 

 というわけで、『資本主義問題』の私のBGMはもちろん“As time goes by”。よかったらあなたもご一緒しよう。一人だったら読みにくい本も、皆と共読だったら心強い。エディションが共読できるのは多読ジムの魅力の一つだ。BGMも一緒ならなおさらのこと。Season18 春の申し込みはもう始まっている。

 

■info 多読ジムseason 18 春


【定員】若干名
【お申込】https://shop.eel.co.jp/products/detail/644
【申込資格】突破者以上
【開講日】2024年3月11日(月)
【申込締切日】2024年3月4日(月)
【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
  以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
  例)season 18 春スタートの場合
    購入時に2024年3月分を決済
    2024年3月26日に4月分、以後継続
※申込後最初のシーズンの間はイシス編集学校規約第6条に定める期間後の解約はできません。あらかじめご了承ください。
  → 解約については募集概要をご確認ください。

  • 中原洋子

    編集的先達:ルイ・アームストロング。リアルでの編集ワークショップや企業研修もその美声で軽やかにこなす軽井沢在住のジャズシンガー。渋谷のビストロで週一で占星術師をやっていたという経歴をもつ。次なる野望は『声に出して歌いたい日本文学』のジャズ歌い。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。