【田中優子の編集宣言】どんなことも考えるに値する―50[守]

2023/02/17(金)12:08
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 田中優子氏が一番好きな[守]のお題は、037番「イシスな文体練習」だという。ある新聞記事の意味内容を変えずに、5つのモードに書きかえる稽古だ。あたかも着替えるように。
 
 私はこの課題で、常に思うことを再確認しました。「どんな出来事も考えるに値する」ということです。

 

 50[守]の特別講義で田中氏はこう語った。お題として取り組んでみると、普段であれば見出しだけを見て通り過ぎていただろう新聞記事が考える対象となった。記者や登場人物の解釈に疑問を感じ、別の可能性はないかと探りもした。モードを変えるだけで視点が変わり、思考の実践につながることに驚いたという。

 037番は、ラストから2番目のお題である。全番回答締め切りまであと3日、50[守]の学衆たちは、記事に登場する商品を知らなかった関西人になったり、宇宙人に対話させたり、4歳のわが子に説明するつもりになったり、シナリオに仕立てたりしながら、文章の着替えに格闘している。藻掻いたからこその視点の変化も生まれている。

 

・良い未来になってくれ、という気持ちが入りました。
・気がついたら、モードによって、記事の切り取る部分が変わっていました。
・表現が変わると、ポイントにしたい部分が微妙に変わるのも面白かったです。
・モード変更によって、ぽろぽろ零れ落ちてしまうニュアンスなどもあるなと感じました。
・それぞれの文章の「らしさ」を言葉で表現すると、キーワード・ホットワードを組み合わせていろんな文章が出てきたので驚きました。
・モードを変えることで単語や動詞が変わっていくのがおもしろいなと思いました。
・このお題で着替えてみたことで、「たくさんの私」の中の、まだ見ぬひとりに、命を吹き込んだような気がしました。
・型とは、無意識でおこなっていることを意識化して取り出すことで、今まで自分が気がつかなかった見方に気づかせてくれるもの、
今まで自分には難しいと思っていたことにもそれを足掛かりに挑戦できるようになるもの、だとおもいました。

 

 モードを変えるとは誰かのメガネや着物を借りること。他者の注意のカーソルの動きが自分に乗り移ってくること。その結果「考えるに値しない」と思われたことが「値する」ことに変換される(『田中優子の編集宣言』より)。
 037番は[守]に続く[破]コースの序章でもある。もっと変わりたい、着替えたいと望むなら、迷わず50[破]に進もう。


◆51[守]申し込み受付中
 [守]基本コース(51期)
 2023年5月8日~8月20日
 https://es.isis.ne.jp/course/syu

◆50[破]申し込み受付中
 ※2023年2月28日(火)18:00まで、早得!
 [破]応用コース(50期)
 2023年4月24日~8月13日
 https://es.isis.ne.jp/course/ha

  • 石井梨香

    編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。