この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

遊刊エディストが変わろうとしている。創刊から4年たったいまでも、イシス編集学校にはまだスクープされていない「事件」がある。この現場に潜入し、記事として届けたい。弥生某日、エディスト編集部・上杉公志の声かけにより、その願いに共鳴する6名の腕利き師範代が集結した。この記事は、キックオフミーティングで行われた特別レクチャーの記録である。
職場で、学校で、家庭で、傾聴の重要性が叫ばれている。「聴く≒インプット」と考えれば、観る、読む、食べるなども同様に大事だ。編集学校でもお題文や回答、指南をどう書くかより、まずどう読むかだ。注意のカーソルの向け方がその後の出来を左右する。
だが、話し手・聴き手双方の世界の見方が変わる「聴く≒観る≒読む」ができる人は少ない。ただ「自分と同じ」を探して「いいねボタン」を押すだけ。これではビッグデータという名の承認印が蓄積されるだけだ。校長松岡正剛は1601夜『ビッグデータを開拓せよ』で、これを「過剰結合状態」と指摘する。
そんな中、遊刊エディスト編集部・上杉公志が立ち上がる。編集学校の価値化されていないネタを救出すべく、JUSTライターチームが結成された。渋谷菜穂子、畑本浩伸、福井千裕、北條玲子、米田奈穂、清水幸江。全員師範代経験者だが、ジャーナリスト未満。デビューは4日後に控えた感門之盟。
足が竦むチームに上杉がプレゼントを投げ込んだ。エディスト記者梅澤奈央によるZoomレクチャーだ。梅澤の本業は企業の話を聴き、社会に示すライター。聴き、問い、結ぶ手腕が『推しメン』にも結実している。
「書く」は難しい。だがその前に立ちはだかる「聴く≒観る≒読む」の壁は高い。虫の目で急所に針を刺し、鳥の目で社会へ広げる梅澤であれば、聴く方法も鋭いはずだ。そう思ってインタビューのコツを質問したら、意外な言葉が返ってきた。
「まずはおしゃべりするかな」
驚いた。が、落ち着いて考えれば当然だ。いきなり針を見せられたら相手は身構えるだけ。すでに急所だとわかっているところを突いても新しくない。だから、まずおしゃべりで氷を溶かし、ガチガチな土に空気を入れるのだ。
レクチャーの冒頭、梅澤は参加者一人一人の顔を見ながら「なにかしらの同期」と共通項を差し出し、「私よりコンパイルもエディットもうまい」と参加者を評価した。話を聴く相手の背景となる《地》と自分の《地》を重ね、自身の温かさで、参加者の地表の氷を「おしゃべり」で溶かしたのだ。
このあと、梅澤はエディストライター的注意のカーソルの使い方を伝授しはじめる。「まず《地》=ソトを見よ」。スターウォーズが宇宙全体の描写から始まるように、地模様を描け、と続けた。
今、社会では何が起きているのか? 読み手の関心はどこにあるのか? 《地》、すなわち舞台設定がよければ良い記事が書ける、と梅澤は豪語する。ワールドモデルの出来が物語の出来を左右する。物語編集術を学んだ読者なら、ことの重要性がわかるだろう。
書くコツは書く前のネタ選び、つまり目利きにある。離総匠太田香保曰く「ダメなネタはどう握ってもダメ」なのだ。ネタを選ぶには、まず相手からネタのタネを引き出さなければならない。そのために「おしゃべり」で《地》を耕すのだ。
聴かなきゃ!と力んでいた参加者の心の地面が、わずか1時間でふかふかに生まれ変わり、芽吹きの準備が整った。そこには猫を抱きながら柔らかく微笑む梅澤の姿があった。
清水幸江
編集的先達:山田孝之。カラオケとおつまみと着物の三位一体はおまかせよ♪と公言。スナックのママのような得意手を誇るインテリアコーディネーターであり、仕舞い方編集者。ぽわ~っとした見た目ながら、ずばずばと切り込む鋭い物言いも魅力。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。