イドバタイムズ issue.11 「よみかき」を超えて―「よみかき編集ワーク」レポート

2022/08/01(月)08:08
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イドバタイムズ issue.11 「よみかき」を超えて―「よみかき編集ワーク」レポート

子ども編集学校のスタートアップ部門である「子どもプランニングフィールド」で、7月9日、「よみかき編集ワーク」が開催された。編集学校の内外から小学生6名、大人12名が参加。2時間かけて、子どもと大人が同じお題に取り組み、本の紹介文を完成させた。回を重ねるごとに、「よみかき」という言葉から想像される以上のものが立ちあがる創発の場に成長してきたワークショップのレポートをお届けする。

 

●連想・ことばロケットゲーム

これまで図書館や学校、地域の交流施設などで何度も行われてきた「よみかき編集ワーク」。今回新たに「ことばロケットゲーム」というステップを取り入れた。ロケットにあやかり、連想を大きく飛ばそうというゲームである。とあるテーマに関して、他の人と共通するものと、他の人と重ならないものを3つずつ考える。このあとの本からキーワードとホットワードを抽出していくステップに向かう準備運動のねらいがある。

 

ナビゲーターは子ども支局の上原悦子さん

 

お題は「夏」。「他の人と重ならないように」というシバリで出てきた回答はこちら。

 

ひまわり・トマト・日陰

ハワイ・江ノ島・マイクラで水族館をつくる

エアコン・夏祭り・線香花火・セミ・水着

電気クラゲ、太陽、冷し中華

おきゅうと・精霊船・ほおずき

墓参り・蝉の抜け殻・虫除けスプレー

お盆・浴衣・海の家

蚊取り線香・蚊帳・まくわうり

真夏日・熱帯夜・温暖化

水遊び・クーラー・キャンプ

トマト・きもだめし・蛍

ギラギラ・シュワシュワ・スイスイ

ひまわり・むしとり・キャンプ

七夕・ビーチパラソル・夏の大三角形

うちわ・かきごおり・アイス

 

トマト以外に重なりがなく、多彩な夏のシーンが浮かび上がった。狙い通りのロケットスタートとなった。

 

●カット編集術でキッズ監督誕生

「よみかき編集ワーク」は、【ひろげる】ワーク(連想ゲーム、キーワード・ホットワードを出す)と、【まとめる】ワーク(カット編集術、キャッチコピー・紹介文を作る)の二段階仕立てになっている。

なかでも、4枚のカットを並べ替えてストーリーを作る「カット編集術」は人気のステップ。この編集稽古は松岡正剛著『知の編集術』(講談社現代新書)で紹介されている。

このステップでは、情報の並び方はいろいろあることと、どのように並べるかでストーリーが変わり、伝わり方も変わるということを感じてもらう。

 

『知の編集術』P.88より

 

少しタネ明かしすると、「よみかき編集ワーク」ではカットの説明はしない。絵の見え方はそれぞれに任せておく。並べ替えが完成すると、子どもたちから「聞いて」とばかりに力強く手が上がる。サムライがただの男になったり、紙が布やまな板になったり、刀の光が星の光になったりしている。進行の守番匠・石井梨香ナビが穏やかに応じた。

「布を切るのは難しいから凄い技をもった人だと読みとったんですね」

「まな板はどこから来たんだろう?と思わせられますね」

コメントによって発表者が伝えたいことがよりくっきりと浮かび上がった。子どもたちの発想からできあがったストーリーに、大人たちが絵のイメージを揺さぶられて唸っていた。

 

●「よみかき」を超えて

途中、うまく進められない子どもたちもいた。ある親子から「キーワードを出せそうにないのですが、見学だけでも大丈夫ですか」とDMが届いた。ナビは「子どもさんが難しかったらお母さんでもいいですよ」と応じ、さらに、「登場人物や、印象的な場面(シーン)、ここが好き!という部分などなんでも書いてみてください」と、ワードを出しやすくするための分節化をサポート。

他方、「書けない」という女の子に、母親が口述筆記する場面もあった。女の子は最終的に音声入力が気に入ったようで、発表では音声入力したものを読み上げてくれた。最後には、参加した全員が本の紹介文を完成させ、発表できた。

 

 

 

よみかき編集ワークは、お題とナビゲーターと参加者の化学反応で成立する。だから、発表は本が紹介されるだけの時間ではない。「よみかき」という言葉から想像される以上のものが立ち上がる創発の場であり、また、一人ひとりの見方と取りくみが詰めこまれた思索のミュージアムにもなる。

 

 

【今回の「私の好きな本」ミュージアム】

 

『エルマーのぼうけん』ルース・スタイルス・ガネット

『マザーテレサ CEO 驚くべきリーダーシップの原則』ルーマ・ボース&ルー・ファースト

『動物と話せる少女リリアーネ』タニヤ・シュテーブナー

『限りなく透明に凛として生きる』佐藤初女

『マジック・ツリーハウス』メアリー・ポープ・オズボーン

『わすれられないおくりもの』スーザン・バーレイ

『てぶくろ』エウゲーニー・M・ラチョフ

『ルドルフとイッパイアッテナ』斉藤洋

『あるかしら書店』ヨシタケ シンスケ

『さるのオズワルド』エゴン・マチーセン

『チョウはなぜ飛ぶか』日高敏隆

『貝の火』宮沢賢治

『感謝だ、ジーヴス』P・G・ウッドハウス

『大どろぼうホッツェンプロッツ』オトフリート=プロイスラー

 

文:吉野陽子

  • イドバタ瓦版組

    「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。