この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

師走といえば、忘年会?いや、忘れてはいけないのは大掃除。最近はアウトソースが流行っている。プロに頼むと結局はコスパ・タイパがよいということらしい。が、しかし冬至の12月22日(金)に豪徳寺ISIS館に集合した面々にそんな言葉は必要ない。この日に開催された年末恒例の本棚の煤払い、名付けて「本どこ屋」は待ちに待った行事なのだ。
◆本棚空間を満喫する
何が楽しいのか?お目当てのひとつは本棚空間に会って浸ること。実はこのISIS館、編集学校のロールを持たない者は、なかなか立ち寄れない場所でもある。約6万冊とも言われる本の館を自分の場にできる貴重な機会を逃すなんてもったいない。
この「本どこ屋」、目的は本棚の大掃除と本の配架し直しだが、広い棚の中の細部は担当した者に任される。分類も並びも担当者の注意の向き方次第だ。よって、自分の本ワールドを作れる。高いところは脚立に昇って作業する。その不安定さもいい。本に手が届くとその棚から届くメッセージが脳内を駆け巡り始める。思わず表紙を開けば、文字とマーキングに目を奪われて仕事が進まないので要注意。並べる順序に悩むと更に時間がかかる。「この本はさっきのとテーマが似てる、時代はどっちが先か。高さも揃えたい。横置きにした方が映えるかも・・」考えた末、ぴたりと段に収まった本棚の姿を遠目に見て自己陶酔する者もある。エプロンに軍手、雑巾を持って靴を脱ぎ、椅子や脚立に軽やかに上る有志らのソージ姿は頼もしい。
◆校長とお茶の時間を過ごす
彼らのもうひとつの楽しみは、もちろん校長に会うこと。
休憩時間に現れた松岡正剛の姿に、やや緊張しつつも喜びで緩む表情が本楼にあふれた。「今年は大変だったね」世間を騒がす事件に関わった者を見つけてそっとかける松岡の声が穏やかで優しくて、場の空気はまた、あたたまる。
休憩後も校長には仕事がある。今年一年で増えた本たちの分類だ。松岡正剛の脳内より直接出る指令に嬉々としてみんな動く。本を抱えて、これは2階の応接室の裏の本棚、これは階段の踊り場あたり、とISIS館の巨大パズルを完成させるために旅立つ足取りは軽やかだ。
◆ダブり本をお持ち帰り
朝10時に始めた大掃除が終わったのは19時過ぎだった。本棚劇場にダブった本がいっぱいに並べられる。好きな本を持ち帰れるとは!と場がざわめく。なんて素敵なご褒美づくしの大掃除だろう。
時間をかけて何冊ものお土産本を選んだ本好き達が、大きな荷物を持ってISISの館を出たのは22時過ぎだったらしい。
安田晶子
編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。