2020ETS編集聖火ポスト09 甲州八珍果×パン=!? 内田・宮川のリアル編集稽古(甲府)

2020/03/12(木)10:26
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 全国から続々と届くETSの開催レポートで浮かび上がるのは「その地にしかないもの(こと)」だ。

 

 「ワークショップでは日本一のお菓子を出そうと決めていた」と内田文子師範代と宮川大輔師範代は振り返る。

 山梨には二十四節気ならぬ甲州八珍果がある。「コウシュウ・ハッチンカ」と読む。ブドウ・ナシ・モモ・カキ・クリ・リンゴ・ザクロ・クルミ。春夏秋冬に対応した代表的な8つの果物を束ねた、山梨にしかないものの一つだ。

 

甲州八珍果

 

 農業経営コンサルとして全国の農家と共にリアル編集を実践する内田と、甲府市内で創業100年をこえる老舗「春光堂書店」を営みながら、読書会や朝の会でひとびとの交流を日々編集する宮川は、これをどうにか形にしようと自らお題を立てた。

 

 この冬、43[破]を修了したばかりで同じく県内在住の三澤洋美学衆の協力を仰ぎ、「オオトパン」と連携し、パンで表現することを決めた。

 オオトパン店主はデザイナーの顔ももち、「素材の近くで暮らしたい」と県外から笛吹市した移住組の一人。「山梨にしかないもの」を大切にし、とりわけ顔の見える生産者から果物を生かした食品開発も手がける発酵エディターだ(いつか編集学校にも入門いただきたい)。

 

 20をこえる打ち合わせと意見交換を経て、旬の柿と葡萄を使ったマスカルポーネサンドが完成した。

 

紅露柿と葡萄のマスカルポーネサンド

 

 ところで、編集工学の基本の一つに「4つの情報編集のプロセス」がある。あらゆる編集は、情報の「1.収集」「2.関係づけ」「3.構造化」「4.演出」でできているという見方だ。雑誌記事も、プレゼンも、朝起きて会社に行くまでの身支度も、この4プロセスで語ることができる。だからこそ、どこにでもある編集を、ここにしかない菓子づくりとするためにとことん交わし合った。

 

 情報は鮮度も大切だ。八珍果の中から旬の紅露柿(くろ柿)とピオーネ(葡萄)をチョイス。もちろんどちらも県内の顔の見える農家からいただいた(収集)。

 パンにとっては果物の水分は大敵でもある。そこでドライフルーツにした。パンとの相性もよく、果実の甘みをぎゅっと凝縮もできる(関係づけ)。

 果物とパンのあいだをつなぐのがマスカルポーネクリーム。ほどよい水分がドライフルーツの風味をデコードする。さらに食感も楽しめるよう、柿と相性のよいカカオニブをプラスワンしている(構造化)。

 提供のタイミングも気を抜けない。そこで一時間で一冊の本を読み切る読書編集術で集中力を使い果たした15時とする。パンの包み紙には果物の生産者情報を印刷し、三澤学衆がサンドの製作秘話を語った(演出)。

 

サンドを語る三澤学衆

 

 甲府のツアーテーマは「編集で発見☆たくさんの山梨」。

 かくして、山梨にしかないものを、内田・宮川師範代はワークショップで実践した。

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。