次男坊が帰ってきた!【本楼エディットツアーレポ】

2023/09/22(金)08:00
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なぜサケは生まれた川がわかるのか。遥かなる外洋での旅を終えて故郷へと戻る、秋ならでのふしぎな光景だ。この秋、イシス編集学校にも驚くべき帰巣本能を持った男が現れた。

 

9月10日(日)、師範・小椋加奈子のナビゲートで本楼エディットツアーが開催された。前日の新井和奈ナビのツアーに続き、エディットツアー2連発の週末である。14時すこし前、豪徳寺ISIS館のガラス扉がゆっくりと開き、すらっと背の高い若者が中へ入ってきた。

 

「あ、Fくん!こんにちは!」

 

1週間前の学校説明会で、田中むつみ母さんの次男坊になった大学生だ。学校説明会のあとすぐに編集力チェックにも挑戦し、エディットツアーでみたびイシスへ。Fくんにとってイシスがホームになったのか、まるでサケの里帰りだ。

 

2時間のエディットツアーは愉しく終了。学校説明会・編集力チェック・エディットツアーと入門前のフルコースを味わったならば、つぎは10月開講の52[守]で編集稽古だね!とスタッフ一同、Fくんの入門を確信した。

 

▲本楼に浮かぶ球体『全宇宙誌』も、わずか1週間後のFくんの帰巣をお出迎え。

 

だがFくんは迷っていた。話を聞けば、いま大学4年生で来春からは別の大学への進学が決まっているという。この秋はその準備など予定がぎっしり。忙しいなか編集稽古をするのに不安がある。未知の扉を開ける決心がついていなかった。

 

そんなFくんの話にナビゲーターの小椋はじっと耳を傾けた。心理カウンセラーを生業にしているだけあって、小椋に話を聞いてもらっているとほっとしてくる。しばらくして、Fくんは小椋に質問をした。

 

「はじめの自己紹介のときに、舞台女優に復帰するという話をされていましたよね。まさか復帰なんてできないと思っていたのに、それが実現したのはイシス編集学校に入ったおかげだと。そこをもう少し聞かせてください」

 

小椋加奈子は元・舞台女優である。学生時代から演劇を学び、俳優養成所をかけもちしながら演劇の世界で生きていた。しかし子育てを機に演劇をやめた。もう自分は舞台に上がることはない、そう思い込んでいた。ところが、イシス編集学校に入ってなにかが変わりはじめる。入門当初は師範代から届くお題に回答し、指南を読んでいただけ。「編集の型」といってもピンとこない。それがいつしか「編集の型を使う」という自覚が芽生えた。身の回りのものごとを編集しはじめ、自分自身すら編集対象になっていく。気づけば、ありえないと思っていた社会人劇団から声がかかり、舞台復帰が決定。「今からでも、いくつになっても新しくなにかをはじめられるという自信がついた」。イシスに入って自身に起きた変化を振り返り、Fくんに次のように伝えた。

 

「編集稽古に専念できるときに受講したいという方、とても多いんです。ただ、いつまでも準備万全という日は来ないんですよね。春になったらまた何か別のことが降りかかってくるかもしれない。いつ来るかもわからない万全の日を待つよりも、やりたいと思ったならやってみたほうがいい編集を意識すると、冒険的なわたしが動き出して【未知】へ飛び込んでいくのが愉しくなりますよ」

 

▲仕事、子育て、イシス編集学校での師範やナビゲーター…さまざまなロールを担いながら、1年後の公演に向けて演劇の稽古を再開した小椋。仕事をしながら役者自身も戯曲の制作に加わるという新しいスタイルに挑戦するため、長い準備期間をかけているという。「できない、やれない、ありえない。【ない】から編集が動き、私の人生が加速している」。

 

エディットツアー後もしばらく本楼に残り、はじめて出会う本、松岡校長の書、こっそり置かれたセイゴオ人形、とつぎつぎにスマホのカメラを向けていたFくん。満足気な表情で本楼をあとにした。次男坊は果たして52[守]に入門するのか。ほんとうの旅はここからだ。

 

▲1週間前の学校説明会の様子を描いた遊刊エディストの記事を見せると、驚いた顔を見せつつも嬉しそうに読んでくれた。ちなみに、むつみ一家のお父さんは52[守]入門を決めました。

 

第52期[守]基本コースは絶賛お申込み受付中!2023年10月15日(日)申込み〆切、詳細はこちらから▼

https://es.isis.ne.jp/course/syu

  • 福井千裕

    編集的先達:石牟礼道子。遠投クラス一で女子にも告白されたボーイッシュな少女は、ハーレーに跨り野鍛冶に熱中する一途で涙もろくアツい師範代に成長した。日夜、泥にまみれながら未就学児の発達支援とオーガニックカフェ調理のダブルワークと子育てに奔走中。モットーは、仕事ではなくて志事をする。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。