この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

春の嵐のように、その男は突然やってきた。 感門初日の深夜25時。1本のメールに品川未貴(46[守]四次元カフェ教室師範代)は驚いた。 品川と齋藤は「46[守]チーム夾綺らんでぶ~」の仲間で、以前から交流はあった。初日の冒頭、通信トラブルで幻となった支所中継だが、一瞬映った九州会場は品川が経営するアートカフェ(福岡市アジア美術館内イエナコーヒー2号店)だった。齋藤はそこで感門2日目を迎えたいという。だが、齋藤は知らなかった。九州会場は初日だけのしつらえだったということを。 品川はあわてた。夕刻からはカフェ警固店での仕事があり、自分1人では応接できない。中野由紀昌(九天玄氣組組長)に深夜の電話で相談するが、中野も瓢箪座からの中継があり、そうそう動けない。 そこからは電光石火で、九天の心あたりの組員に連絡がまわる。東京からのお客人を無下にしては九天の名折れである、誰か動けないかと。結果、品川と三苫麻里(45[守]中洲マリリン教室師範代)がアジア美術館アートカフェにて、齋藤を迎えることとなった。 2日目の昼刻。卒門式を無事終えた朗らかさをまとって齋藤はあらわれた。カフェのテーブルでパソコンを開きさっそく感門に見入る。 46[守]メンバーにとっての、この日のハイライトは出世魚教室名の発表だ。誰が46[破]の師範代となり、教室名がいかなる出世をとげるのか気になるのが当然だろう。そして、品川の新教室名もここで発表されるのである。 「新教室名は互次元カフェ教室です」 思わず破顔する品川。 『互次元!もっと交わっていってくださいね!背後に、なんと、らっかろー齋藤師範代が映り込みました!』 書き込んだのは「チーム夾綺らんでぶ~」担当の若林牧子師範だ。ほんの一瞬だけ映り込んだ齋藤の姿を見逃さなかったのだ。ものすごい注意のカーソルの発動である。 ★ 2日目の夜、齋藤を囲むZOOM歓迎会が開かれた。 速修は、通常38題17週間のところを13週間で駆け抜け、初めの一ヶ月は毎日出題というハイスピードコースだ。学衆の数も、いいちこは11名、落花狼藉は14名と通常より多かった。この指南生活がどれほど苛烈なものか、師範代経験者ならば容易に想像がつくだろう。 しかしそれを語る2人の笑顔は力みが抜け落ち、なんとも晴れやかだ。 さて、そもそもなぜ齋藤は突然の九州訪問を思い立ったのだろう。当然、その質問がぶつけられる。 「もし齋藤さんに何かあったときは、私が代わりにやります」 齋藤はこの品川の心意気に感じて、いつか返礼をしたいと思っていた。 期をともにした師範代同士の友情を聞いて、皆が胸をうたれた。 感激が場を満たすなか、誰かがふと「齋藤さん、その胸の文字は何ですか?」と尋ねた。 あまりにもその通りすぎて、座は一転、大爆笑となった。 九州に嵐を巻き起こし、落花狼藉オトコは東へと帰っていった。
文:三苫麻里
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石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
イシス編集学校九州支所「九天玄氣組」は今年20周年。発足会を行った9月の彼岸をめざし、周年事業を進めている。軸となるのは「九州の千夜千冊」を冠した雑誌の発行だ。松岡正剛の千夜千冊から選んだキーブック1冊ごとに33冊のグル […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。