この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

守護神の如くいつだって[守]稽古の現場に張っているのが52[守]で番匠を務める景山和浩だ。秘めたる涙もろさと機を逃さぬ俊敏さを武器に、近大生の編集稽古ドキュメントを連載し、エディストを席巻しようと目論んでいる。第2回はニュースで話題となったウナギから、近大生と用法1ににょろりと迫る。
編集稽古004番「地と図の運動会」で考えてみた。
庶民を地とすれば、高根の花である。
土用の丑を地とすれば、主役である。
食卓が地となれば、梅干とは相性が悪い。
環境問題を地とすれば、絶滅危惧種である。
映画を地とすれば、役所広司の主演作。
近畿大学を地とすれば……完全養殖に成功した研究対象である!
お分かりだろうか。図はもちろんウナギだ。近大といえばマグロ-そんなラベリングに待ったをかけるニュースが2023年10月、マスコミをにぎわせた。
ウナギの完全養殖に成功。
天然の卵や幼魚に頼らず、人工孵(ふ)化で育てた成魚からとった卵で、再度の人工孵化を目指すことを完全養殖という。近大のリリースによれば、19年3月から取り組み、ついに成功したという。持続できれば、ウナギが庶民の味方になる日も近いかもしれない。う~ん、サマードリーム。この夏もウナギに縁がなかった番匠は思うのだ。
52[守]は開講して3週間、用法1から用法2へ移った。うれしいニュースの発信源である近大生の稽古ぶりはどうだろう。
景山組は6人。中心となって稽古を進めるのは、AIDAでプレゼンを務めた水上亮輔さんだ。前回の記事では「Mさん」としていたが、「名前を出してかまいません」と言ってくれた。卒論の締め切りが迫り、ゼミのために徹夜しながら回答を続けている。
Oさんも用法2に入っている。Kさんは用法1コンプリート秒読み。
3人がペースよく回答を続ける。ブラボーな3人に、この場を借りてメッセージを贈りたい。
Kさん、自己紹介で書いたように「少しでも多くのことを吸収」しよう。就職活動にもきっと役立つはず。
Oさんの008番「豆腐で役者を分ける」は秀逸。クラシックの作曲家を能面で分類。能面にこれだけ種類があるとは知らなかった。圧巻の回答です。
同じ008番、水上さんは食事を作家で分類。古典から現代文学まで程よくまぶされ、幅広い数寄が垣間見えるのがおもしろい。しばらく止まっている3人もいつでも再開OK。待ってるよ。
ちなみに他の近大生はどうか。番匠の阿曽祐子率いる「阿曽組」は6人全員が着実に稽古。負け惜しみじゃないけど、もう少しスピードアップしてもいいかも。釣果そうか!教室師範代だった稲森久純が率いる稲森組はNさんが独走。他の学衆も頑張れ頑張れ!
わたくしごとだが、11月初旬、3日ほど島根県に里帰りした。1年ぶりに両親に挨拶。そこであるニュースを耳にした。同じ町内の男性がダムで全長1・1メートル、体重約3キロもある巨大ウナギを釣り上げたという。うな丼なら20人分。男性は「このあたりのヌシではないか」と、食べずに、出雲市の自然館に寄贈したそうだ。それにしても何を食べればここまで大きくなるのか。
そもそもウナギは謎に満ちている。アリストテレスは『動物誌』に「ウナギは泥から生まれる」と書いたほどだ。魚類が卵から孵化することを観察していた古代ギリシアの哲学者でさえも、ウナギは例外だと断じた。雌雄の区別はない。産卵も交配もしない。子孫を生み出さない。どこからともなく忽然と現れる。それがウナギだと説明した。
笑ってはいけない。どこを探してもウナギの幼魚は見つからなかった。それなのに、雨が降ってできた水たまりに突然現れるウナギ。「泥から生まれる」と結論づけられても仕方がない。海で生まれ、ある程度大きくなってから川を上ってくることが今では分かっている。アリストテレスの時代、まさか遠く離れた海からやって来ていたとは、思ってもみなかったのだろう。
それでも初めて生物を体系的に分類した『動物誌』は人類にとって快挙だった。17世紀まで自然科学の基盤となったからだ。
人は謎に満ちた世界を前にすると、分けずにはいられない。安全か危険か。食べられるか食べられないのか。古の人は生きるために分けてきた。分けると分かる。用法1は人類の歴史が生み出した編集稽古でもあるのだ。
島根の巨大ウナギも、海から川を上ってダムへとたどり着いたのだろう。近大の完全養殖成功の報は「謎」解明に灯りをともしたはずだ。アリストテレスが知ればきっと『動物誌』を書き換えたくなっただろう。ウナギ史に新たなページを加えた近大生、ますますうなぎのぼりの回答を! と、つかみどころのない話になりかけたところでお開きだ。ウナギだけに。
景山和浩
編集的先達:井上ひさし。日刊スポーツ記者。用意と卒意、機をみた絶妙の助言、安定した活動は師範の師範として手本になっている。その柔和な性格から決して怒らない師範とも言われる。
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2025-06-10
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2025-06-10
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2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。