ひと潮から新潮流「映像編集」へ――52[守]師範による突破者インタビュー

2024/03/24(日)19:36
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完成しているはずの作品のなかに編集の余地があるのを見つけたとき。第83回感門之盟のフィナーレを飾った鴻巣友季子氏と松岡正剛校長との対談のなかで、鴻巣氏が翻訳の妙味をこう語った。イシス編集学校の指導陣も心の内で大きく頷いたことだろう。

 

 半年前の2023年9月、第82回感門之盟、卒門して次の道に迷う守学衆と突破して寿ぎあう破学衆の間に立った52[守]師範の阿久津健の胸に渦渦と去来するものがあった。[守]の卒門式は感門之盟の初日、[破]の突破式は感門之盟の2日目に行なわれる。多くの者は、師範として初日の卒門式に参加し、黒膜衆のカメラマンとして2日目の突破式に参戦する阿久津のようには、守学衆と破学衆の両者の誇らしげな晴れ姿を目撃することは叶わない。これまで、[守]の指導陣たちは、卒門を果たした学衆に、汁講での指導陣の体験談語りや突破学衆からのテキストメッセージの配信など様々な手を尽くして、守稽古の先の編集の奥を示してきた。が、眼前の突破学衆のイキイキとした姿こそ可能性を秘めているのではないか。外に目をやれば、YouTubeやTikTokといった動画専用のプラットフォームだけではなく、SNS上でも動画コンテンツの配信が増えている。

 

 「突破学衆のインタビュー映像編集に取り組みたい」。ほどなく阿久津が52[守]師範陣の集まる場で呟いた。即座に師範の角山祥道が賛意を表し、突破学衆のインタビューの映像編集は、52[守]師範陣のターゲットのひとつとなった。第83回の感門之盟の全容が見え始めた3月初旬、俄かに映像班が結成された。名のりをあげたのは、映像撮影の初心者の稲垣景子と阿曽祐子。使うツールは手軽なスマホだ。阿久津が撮影のコツを伝授し、角山が学衆の想いを引き出す問いをアドバイスする。狙うのは感門之盟2日目、突破式とP1グランプリ終了直後の20分休憩だ。仲間と寿ぎあって表情も感情もピークに達している間隙である。

 

 51[破]の指導陣の後押しも得て、突破学衆が次々カメラの前に集まった。

「守と破は別物ではないということがわかった」
 ー静かな声色だが、力強い眼差しでその確信を伝える。

「クロニクル編集術で自分を全く異なるものと重ねたことで、自分のキーワードが見えてきた」
 ー”自分”という対象に編集可能性を見出した喜びに声が弾む。

「自分のなかで書きたいものが初めて出てきた」
 ーもっと書きたいとう渇望が胸の奥から飛び出さんばかりに力強い。

「あまり好きではなかったモノゴトの違う面が見えてきて自分でも驚いている」
 ー言葉を選び頷きながら確かめるように話す。

 

 

 インタビューを決行してから5日後、11名分の映像編集を終えた阿久津からの声が52[守]別院に届いた。

今期51[破]を修めた学衆の声をあつめた映像をお届けしましょう。
物語編集術における「英雄伝説の型」でいえば、旅立った遠くから帰還した英雄たちの姿です。

 

 情報と情報のあいだに潜む「まだ編集されていない部分」を逃さないひと潮がつながって、師範による映像編集という新たな潮流が生まれでた。師範たちの目は、編集を待っている人・場・兆しを決して逃さない。

 

(文:52[守]番匠 阿曽祐子)

 


★第52期[破]応用コース

稽古期間:2024年4月22日(月)~ 2024年8月11日(日)

申込はこちらから[破]応用コース – イシス編集学校 (isis.ne.jp)

 

★第53期[守]基本コース
稽古期間:2024年5月13日(月)~2024年8月25日(日)

申込はこちらから[守]基本コース – イシス編集学校 (isis.ne.jp)

守のことがわかるエディットツアー(4月14日開催)

 

  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。