この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

イシス編集学校の本拠地「本楼」で52守の伝習座が開催された。本棚劇場の楼上に揺れる行燈の奥にみえるのは、ガウスの墓碑銘に刻まれた言葉“Pauca sed Matura”「少数なれど熟したり」である。
伝習座に集った師範代はオンラインを含め18名。大人数に聞こえるかもしれないが、編集に生きるわたしたちは、社会の中の少数だ。
伝習座は師範代の学びの機会として開催される。だが単なるインプットの場ではない。イニシエーションといったものとも異なる。開講日から約1ヶ月。編集稽古を通して学衆一人ひとりの「らしさ」があらわれだすと、教室のワールドモデルの見立てなおしが起こる。それは「本棚の組替」や「映像の編集」に似ている。教室という生きた世界を読みなおし、新しい見方を立てるのだ。
52守伝習座の開幕にあたり、イシス編集学校学林局の八田英子律師は、オープニングメッセージで金環日食にまつわるエピソードを披露した。
太陽に月が重なり金のリングのように見える金環日食。10年ほど前に日本で観測され、多くの人が輝く円環を写真におさめた。なかでも、折れそうに輝く円環をみごとに写真に収めた知人がいた。これをみんなで寄ってたかって大絶賛した。
するとその知人はこう言った。
「これ、輪ゴムだよ」と。
なんだよ!マジかよ!と、
驚いたと同時に問いが生まれたのだという。
黒い背景に輪ゴムを置いただけだのものが、見事なダイヤモンドリングに見えたのはなぜなのか。
わたしたちの目は、「そう見る」ことができる。なににどう注目するのか、なにを背景とするのか、無自覚にも自覚的にも、視点を切り替えることができる。
教室という世界で起こることはすべて、金環日食のような事件としてみることができる。その場所に集った者たちの間で、いまだからこそ起こる唯一無二の出来事は、ダイヤモンドリングどころではないかもしれない。
師範代は学衆の回答が生まれるまでのプロセスに、月と太陽が重なる朔日の奇跡を感じる。学衆の回答をダイヤモンドリングに見立ててみる。そうすれば、編集は必ず、イキイキとした方へ向かうだろう。
師範代は、社会の少数なれど、熟したり。
決められた見方から脱出するほうへ。編集が拡張するほうへ。ひとつひとつの教室でこれを積み重ねていけば、わたしたちは決して少数ではない編集世界にたどり着くことができるはずだ。
阿部幸織
編集的先達:細馬宏通。会社ではちゃんとしすぎと評される労働組合のリーダー。ネットワークを活かし組織のためのエディットツアー も師範として初開催。一方、小学校のころから漫画執筆に没頭し、今でもコマのカケアミを眺めたり、感門のメッセージでは鈴を鳴らしてみたり、不思議な一面もある。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。