この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

恋せよ学衆。
51[破]はコイの季節である。対象はもちろん編集だ。編集は奥が深い。そこで、51[破]は編集を研究する「コイラボ」を立ち上げた。
まず、「いじりみよ研究所」が一部局として開設された。「いじりみよ」とは、開講直後に取り組む基礎的文章術のひとつで、ある物事や事件について論旨を簡潔に組み立てるための型である。
い=位置づけ:そのトピックは何か?
じ=状況づけ:その背景にある動向は?
り=理由づけ:それが起きた原因や理由は?
み=見方づけ:理由づけとは異なる、それの大局的な意味は?
よ=予測づけ:今後それはどんな影響を及ぼすのか?
※太田総匠による「いじりみよ」参考記事はコチラ
普通の作文にも「いじり」はある。そこに、トピックの本来を探る「み」、さらには、大胆な予測を行う「よ」に至って、単に文章を構成するだけでなく、新しい意味の発見へと向かうのだ。「全イシスが常に携えている方法」とも言われるこの強力な型、「いじりみよ」を探求しようというわけである。
「いじりみよ研究所」の立ち上げから回答の研究まで、一手に引き受けたのは、高柳康代・北原ひでお・中村まさとし、の3評匠である。[破]を長きにわたり支えてきた“目利き”師範の評匠が旗振り役となり、学衆たちに別院への「いじりみよ」回答の投稿を呼び掛けた。初の試みにもかかわらず、全学衆の半数近く31人が参加。早くもコイ風邪に罹患したらしい。
イシスのお題の回答に正解はない、と言われるが評価も多様、評匠の評価ともなれば別様である。
研究員Kこと北原評匠は、「いじり」の事実と「み」の仮説を元に、普段の“限界を超える”推論となる「よ」になっているかアブダクションを注視した。そんな研究員Kのカーソルがとらえたのは、「循環葬」を取り上げた平蔵ひたすら教室SKさんの創文。昨今のサスティナブル指向という表面的な理由のさらに奥にある理由を仮説することで、「循環葬」が葬儀に留まらず“終わることに寛容な価値観”の端緒であるとした新しい見方を称えた。
研究員T、高柳評匠が着目したのは、お題の本来をとらえた回答となっているか。「い」の問題提起から「よ」の予測・結論へ、読み手を意識した読みやすいハコビになっていることを重視。ホンロー太夫教室AHさんの「円安」を論じた創文が推しだ。予測づけはありきたりと指摘しながら、複雑な要因をわけてあつめて、歓迎ムードだった円安が生活を脅かすものへ反転した現状を簡潔に表現した手腕を評価。合わせて、遠くのものを近くへ、卑近を遠大へと、論を進める「いじりみよ」の型の力を示した。
最後の報告は、いじりみよ研究所生みの親、研究員Mのまさとし評匠から。31回答全体はそれなりに壮観だけれど、個々は心もとないとひとくさり。「位置づけ」が並みにとどまると、「予測づけ」もそれなりにしかならない、とテーマ設定の大切さを説く。そんな中で目を止めたのは、平蔵ひたすら教室TMさんの、師範代の指南を受けずに直接投稿に持ち込んだ回答。粗削りながらも文頭も文末も言い切っていて勢いがあり、意外なメッセージにつながる予感がする、と期待を添えた。
研究員K、T、M、三者三様の研究目線で回答を射抜いた。評価の切っ先はめっぽう鋭い。
マラルメ五七五教室TSさんは、「いじりみよ研究所」への回答投稿を終えた際、こう語った。
「具体的な出来事から一気に抽象的な予測づけの高みにまで、ぐーんと駆け上がっていくところがダイナミックで。デーモン(逸脱)を出してジャンプしたいのだけれど、そのためにはそれなりの手順や仕込み(今回の推敲のような)も必要なのだなと感じました(これってコイかしら)。」
評匠が仕掛けたコイの罠に学衆は落ちてしまったようである。
さあコイ学衆。次は知文AT賞のエントリー。
締切は11月12日(日)18時、火蓋はすでに切られている。
白川雅敏
編集的先達:柴田元幸。イシス砂漠を~はぁるばぁると白川らくだがゆきました~ 家族から「あなたはらくだよ」と言われ、自身を「らくだ」に戯画化し、渾名が定着。編集ロードをキャメル、ダンドリ番長。
とびきりの読書社会到来の夢を見る。 54[破]開講を2週間後に控えた「突破講」でのことです。[破]に登板する師範代研鑚であるこの会は毎期更新をかけていくのですが、54[破]は、「編集工学的読書術」を実践した […]
53[破]第2回アリスとテレス賞大賞作品発表!アリストテレス大賞 小笠原優美さん
人生は物語である。人にはそれぞれの物語があるわけだが、ならば、物語など書く必要はあるのだろうか。 [破]には、3000字の物語を書く物語編集術がある。[守]の稽古を終えて卒門した学衆の多くは、この編集術に惹 […]
これは徹夜になるな。 その日私は、ツトメ帰りに会場である本楼上階の学林堂に向かった。到着し準備を始めたところに、松岡校長がふらりと現れ、離れたところに腰を下ろし静かに耳を傾ける。そして、私はうれし苦しい […]
映画『PERFECT DAYS』が異例のロングランを続けている。アノ人も出ている、というので映画館に足を運んだ。 銀幕を観ながらふと、52[破]伝習座の一幕を思い出した。物語編集術の指南準備として、師範代た […]
ホトトギスが一倉広美師範代を言祝いだ。51[破]マラルメ五七五教室の師範代、一倉に日本伝統俳句協会新人賞が贈られたのである。 日本伝統俳句協会は、明治の俳人高濱虚子の孫、稲畑汀子が虚子の志を現代に伝える […]
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。