この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「私の所属する組織はカゼ引きです。
みなさんの組織はいかがですか?」
イシス編集学校の50期[守]師範の阿部幸織が画面の向こうの参加者に問いかけると、参加者のアタマが縦に大きく揺れた。10月7日(金)に行なわれたエディットツアーは、編集ワークで遊ぶように組織のカゼ治療のアイディアを交し合う90分間となった。
●組織の問題を掴む:【見立て】
「タバスコ入りのダージリンティー。
強い意見が出てくると混乱してしまうのです」
「焦げすぎたクレームブリュレ。いつも焦げているので、食べたくないです」
「甘いスルメ。実は意外性をもっているかもしれないです」
組織の問題を伝えようとするとき、上手く表現できずにもどかしい思いをしたことはないだろうか。阿部は「組織をお菓子にたとえて紹介してください」と呼びかけた。一瞬の空白の後、手やアタマを動かして、参加者がたくさんの「オカシな組織」を紡ぎ出した。「うんうん、うちも同じ」と頷きあう。一見遠い「組織」と「お菓子」。意外なことに、多くの説明をせずにイメージをあらわし、瞬時に他者と共有できる。扱う対象を「そのまま」でなく【見立て】の型を挟むことで、他者との対話を進めることができるのだ。
●組織を変える糸口を見つける:【ないもの】
組織を変えたいと思っても、どこから手をつけたらよいだろうか。糸口が見えないことも多い。そんなときに有効なのが【ないもの】である。「いまの組織に【ないもの】をあげてください」という阿部のかけ声に、まずは「コーヒーメーカー」「ヨギボー」「ハンモック」といったモノ。続いて「歴史」「認知度」「思いやり」「スピード感」「自由」「アイディア」。更に「バレエダンサー」「畑」までもが飛び出した。【ないもの】にも、【あったほうがいいのにないもの】、【いらないからないもの】、【ありえないからないもの】と幾つかの種類がある。組織のカゼ治療で有用なのは、中でも【あったほうがいいのにないもの】。阿部は「【ないもの】からこそ、新しいものを生み出すことができる」と力強く言い切った。
●組織を変える方向性を定める:【地と図】
組織の現状(問題)を把握し、組織に不足しているものを特定したら、次はどう変えていくかが重要だ。情報には、必ず【地と図】という二つの側面がある。情報を解釈する視点である【地】を動かせば【図】の捉え方が変わる。例えば、マスクという【図】の情報は【地】をお店にすれば「商品」となり、有名人にすれば「仮面」に変わる。組織の方向性を考える際も【地】を動かすことが有効だ。阿部から出された「自分のワクワクを【地】にして、【図】の組織をもっと美味しいお菓子に言い換える」お題に参加者が向かう。
「焦げすぎたクレームブリュレをツンデレ生ケーキに言い換えました。
焦げた部分に生クリームトッピングして柔らかく甘くすれば、苦みと
甘みを両方楽しめます」
「タバスコ入りのダージリンティーをキンキンに冷えたチャイティーにします。
スパイスも入っているけれども、調和がとれたものになりました」
「甘いスルメを、さばいても動いている新鮮なイカソーメンに言い換えます。意気がよくて、ちょっとやそっとでは死なない組織です」
通常、私たちが組織のことを考えるときは、無意識のうちに既にある社会のルールや規範を【地】に置いている。【地】の設定を意識的に変更することで、前提に縛られないアイディアを生む可能性が格段に増える。互いに出し合った「進化版・オカシな組織」に笑い声があがった。
●組織の変革を実現する:【38の型】
私たちのアタマの中では、無自覚のうちに様々な編集が行なわれている。仕事でも、家事でも、遊びでも、たくさんの情報をインプットし、何らかのプロセスを経てアウトプットに変えている。このプロセスを「型」として身につけることで自覚的に扱えるようになる。
こじらせてしまった組織のカゼを「型」で捉えなおして、関係者との対話の遡上にのせれば、アイディアの種は更に増える。カゼ治療は、まだ序の口だ。ここから組織変革を実現するために、システムの乗り換え・持ち換え・着替えを企てることが必要だ。[守]の38個の型を手にすれば、いかようにでも組み替えていける。「変えていくために、50期[守]で再会しましょう」と阿部の凛とした声でツアーは一端の閉幕となった。
■イシス編集学校[守]基本コース 第50期 受付中!
受講期間:2022年10月24日(月)~2023年2月19日(日)
申し込みはこちら
阿曽祐子
編集的先達:小熊英二。ふわふわと漂うようなつかみどころのなさと骨太の行動力と冒険心。相矛盾する異星人ぽさは5つの小中に通った少女時代に培われた。今も比叡山と空を眺めながら街を歩き回っているらしい。 「阿曽祐子の編集力チェック」受付中 https://qe.isis.ne.jp/index/aso
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。