競いが拓く、未知と道――48[守]の声

2022/03/25(金)09:00
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  48[守]の19教室では、113名の学衆が門を出た。彼らには何が起きていたのか。どんな教室体験があったのか。師範と師範代が捉えた学衆の「声」をお届けするインタビュー第6回目。「高めあう」編をお送りする。

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 教室での出会いは一期一会だ。世界に一つしかない奇妙な教室で仲間と過ごした日々は格別な思い出として学衆に刻まれているだろう。点閃クレー教室には7名の学衆が集い、全員全番回答。教室クローズ後も共鳴し合う自主稽古が止まらない。今回は編集カラオケ八段錦を7回も歌った増尾友明さんと、卒門後一週間で2周目の全番回答を成し遂げた月生達也さんに師範代の大濱朋子が迫る。

――お二人とも知人の紹介での入門でしたね。編集稽古の最初の印象は?

 

増尾:『知の編集術』や千夜千冊も読んでいましたが、いざやると日頃使わないアタマの領域を使う。指南付きなのが楽しいし、手紙のやりとりのようだけど、他の人の回答や指南も見られる。変なことは書けないと人目を意識して回答していました。だけど、月生さんが点呼に遅れて登場するし回答もみんなと違う。「この人はイシスの刺客か!?」と、浮き足立っていた思いが立ち止まりました。そこからみんなの回答も冷静に見られるようになりました。

 

月生:せっかくやるならより自分の学びにしたい。みんなの回答と被らないようにとか、このお題は仲間の回答を見ないで答えようとか、いかにみんなの脳みそを借りるか方針立てて回答していました。先頭を走る河野さんは真面目な勉強家だと思っていたけど、稽古が進むとテキストからお茶目な面も。今は動画に頼ることが多い時代。文字だけでキャラが見えるのは新鮮でした。師範代の指南もお題毎に装いが違って、普通の学校にはない面白みがありました。

 

――稽古を重ねて感じたご自身の変化は?

 

増尾:明らかにものの見方や捉え方が変わり、モノゴトの違う面が見えてきました。自分に対しても、違った見方ができるようになり、以前より認められるようになった。同じように、周りの人にも別の面白い面が隠れているに違いないと思うと、すごく優しくなれました。妻からは、つまんなさそうにしていたのに最近は毎日元気だねって(笑)。

 

月生:僕は言葉への接し方が変わりました。動画編集の仕事でキャッチコピーやテロップを付ける時、言い換えながらシソーラスを広げて、らしさや柔らかいダイヤモンドなどの型でひと工夫するようになりました。

増尾:大切なことを思い出しました!5歳の息子を見ていると、子供の遊びはほとんど編集の型だなーって。見立てがあって、ルール、ツール、ロールがあって。桑山さんもお子さんと稽古をしていましたよね。子供の遊びを見るのが楽しくなリました。

 

 常に教室の仲間を意識しながら稽古を重ねた二人だった。月生さんの笑い溢れる回答と自主指南風な解説に全員が注目。増尾さんは全回答から話題を繋げ一人一人に声をかけた。二人によって新鮮な酸素を運び続けられた教室は、生命体のように活力を得ていった。

――お二人は卒門後も稽古を続けましたが、そこにはどんな理由が?

 

増尾:最後の回答を放った後、これで稽古が終わっていいのか、目指したことができたのか、悶々としたものがありました。そんな中、月生さんが2周目を始めて、何かやりたいけど動けない自分が悔しかった。汁講で古野(伸治)師範に言われた「増尾さん、好きなことやればいいのに」の言葉が後押しに。編集学校では、やりたいようにできる。ならば、編集八段錦をトコトンやってやろうと。

 

月生:僕は1回じゃ理解できないことが多いので、最初の頃から2周目も考えていました。時間管理を変えると毎日できるようになったし、大濱師範代が1周目と違うモードで指南をしてくれて、視野が広がりました。増尾さんが毎日歌っているのを見て、僕は広げているけど増尾さんは深めていると張り合いがあった。師範代は、何をやっても応じてくれるとわかっていました。

 

――今後の編集道について伺います。ズバリ師範代になりますか?

 

増尾:卒門する前から[破]へは申し込みをしていました。今、勧学会でミニお題出させてもらっているけど、指南風コメントに結構時間がかかる。あらためて師範代の時間編集は、どうなっているんだろうという興味はあります。

 

月生:僕は[破]の後も編集で遊びたいです。今、勧学会で、お題を出して、みんなの回答への指南にチャレンジしている。自分ひとりだと難しいことも、誰かが待っていると思うとできる。もっと編集を面白くしていきたいと思う。僕も師範代に興味があります。

 

 今日も鳴り止まないメール。放ち続ける仲間の存在が稽古を続けるチカラに変わる。遊びが芽生える瞬間を掬い上げ、先頭を切って遊ぶ二人は、ひとりではたどり着けない場所へ向かっている。その自在な編集道から目を離したくない。

(取材・文/師範代・大濱朋子)

▲左上:増尾さん、右下:月生さん、右上:大濱師範代

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 月生さんは、第78回感門之盟の「律師の部屋」に登場した。八田律師の勧めにより、参加者に向けてミニお題をその場で出題した。3分後に届いた最初の回答は、増尾さんからのもの。あらゆる機を捉えて編集し尽くそうとする二人のカマエは、師範代から受け継いだミームだ。ライバル同士の競い合いが、教室を超えて渦を巻き起こし始めた。

(取材・文/師範・阿曽祐子)

 

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  • 阿曽祐子

    編集的先達:小熊英二。ふわふわと漂うようなつかみどころのなさと骨太の行動力と冒険心。相矛盾する異星人ぽさは5つの小中に通った少女時代に培われた。今も比叡山と空を眺めながら街を歩き回っているらしい。 「阿曽祐子の編集力チェック」受付中 https://qe.isis.ne.jp/index/aso

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。