この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「8時間、ただの一度もトイレに行くことなく画面のまえにいました」
45[守]オンライン伝習座の終盤だった。一座がどよめく。元舞台女優、野住智恵子師範代は、新種の生物を発見したかのように興奮している。
「この長時間、舞台を見続けるなんて考えられへんことです。奇跡やと思う」
[守][破]では期間中2度、指導陣が一同に会し、互いに研磨しあう。それが伝習座だ。今期はすべてオンラインに切り替わった。第153回のこの日は、けっしてミスをしない佐々木千佳局長が「感門」と思わず言い間違うほどに、贅と編集を凝らしたしつらえであった。
Zoomの参加者を丸一日釘付けにする方法はなにか?
伝習座総監督の小森康仁ディレクターは断言する。
「とことんやりきって、捨てるものを捨てて、またやりきる。校長のその繰り返しが、この場を作っています」
100Kgはあるブビンガテーブルを10人がかりで動かしたかと思えば、しゃがみこんでは紫陽花の向きを整える。その直後、コンマ数秒単位でカメラワークの間合いを調整する。野住のいう「奇跡」は、ミリ単位のパーツが寸分違わず幾千と組みあげられた、細密で豪奢な花火玉の連打である。
「20周年感門はみんなに任せたいからね」と前置きをして、松岡正剛校長は、壮絶かつ緻密なプランニングの方法を明かした。
[1]まずは、うちうちで驚く
ただオンライン用に変更するのではなく、自分たちが見たことのないものを作りなさい。
今回のように、本棚劇場に師範が横一列で並び、本楼に複数の島をつくるポジションは、編工研スタッフも見たことがない。自分たちが驚くようなものでないとだめだ。
[2]準備を尽くす
そのうえで、事前の準備を分厚く貯めること。
対談なら打ち合わせもする。師範陣の語りも、すべて前日リハで2、3点のディレクションを入れている。頭上に貼った幣のようなお題札は、『の』が大きいから、小さくしろ」などフォントの調整までかけている。とくに重要な幕開け5分の演出は、前日当日合わせ都合5回のテストを行った。
[3]相談できる相手をもつ
そして、だれかに相談すること。ぼくがなにかをするときは、ピンの人を見る。
紫陽花を飾ろうと思ったら、田中所長に頼む。そうやってぼくが、誰かにお題を出す。どんな紫陽花が来るのか、どこに置くのかを見て、それにぼくが応じていく。自分ひとりだって、いくらでもできます。けれど、それはふつうのこと。ふつうじゃないことをしないと意味がない。
今回は「鈴木康代劇場」というコンセプトを立てた。この実現には、吉村と小森という相談できる2本のピンが必要だった。本楼のディテールについては、上杉の反応で確かめる。
よく気がつくところは、一人ひとりみんな違います。
隠れた注意のカーソルを駆動させる人を、それぞれがもちなさい。
締めくくりに、松岡校長は全イシス学徒にお題を出した。
「編集学校の『秘すれば花』を解いてもらいたい」
たとえば、見たことのない教室名がつくこと、一人ひとり感門表が異なること、「番匠」という他にはないロールがあること。編集学校の教室に、廊下に地下室に、ゆうに100を超える秘密が息を潜めている。
それはすべて、校長がしかけた時限爆弾だ。
人を、場を、思考を、世界を揺るがす砲火を浴びてしまったイシスの民は、今度はそれぞれが仕掛ける側にまわらなければならない。NEXTイシスに火をつけるのは、これを読むあなた自身である。
(photo by 後藤由加里)
「編集はひとりではできません」 交わし合いをうながして、鈴木康代学匠は伝習座の1日を仕舞った。
▼この45[守]伝習座のプランニング風景はこちら:
▼45[守]伝習座の布陣はこちら:
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。