この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

ある者は、クリスマス仕様のうまい棒30本を胸に抱え、ある者は、新時代の味噌汁について構想を語る。イネの免疫システムがレクチャーされるすぐ横で、ホルシュタイン=ゴットルプ=ロマノフとロシア語の呪文が踊っている。
ここは、近畿大学中央図書館ビブリオシアター。12月23日(月)18時半、5限目の授業を終えた近大生たちがミーティングルームにぞくぞくと集まる。経済学部から薬学部まで、専攻も学年もバラバラな12名の共通点は、編集学校の学衆ということ。この日は近大生の学衆が初めて顔を合わせる「交流会&稽古DAY」だった。
編集学校と近畿大学の縁は深い。2017年にオープンしたこの新図書館は、松岡正剛監修。イシス編集学校の指導陣も選本から設営まで泊まり込みで作業し、心血を注いだ一大ミュージアムである。図書館を利用する学生にも編集工学を知ってもらうべく、2018年秋、42[守]より近大生の団体受講が始まった。43[守]からは、近大と編集学校のつなぎ役として「近大番」が発足。今期44[守]は、大阪在住の川野貴志師範、山根尚子師範、梅澤奈央師範代が任にあたる。
今日の会場は「ACT」と呼ばれるガラス張りのミーティングルーム。川野が7名の[守]受講生の感想を引き出して、イベントは始まった。
「こんなに年齢層の広い学衆がいるとは思わなかった」
「いろんな人の考えに触れることで、自分の見方も変わった気がする」
「日常のすべてが編集だと気づいた」
用法3へ差し掛かった時点でこれだけの発見があることに、稽古の充実がうかがえる。
切実な問いも現れた。
「どうやったら稽古が続けられますか」
川野は即座に応える。
「ちょっとしたことです。ひとつは、稽古仲間を作ること」
多くの学衆にとっては、汁講で師範代や教室仲間に会うことが稽古のモチベーションとなる。だが、関西在住の学生にとって、東京での汁講参加は難しい。そこで、近大学衆同士がつながるきっかけになればと、このイベントは企画されたのだった。
ここで生まれるのは、横のつながりだけでない。彼らの声をうなずきながら聞くのは、現在43[破]受講中の先達近大生5名。代表として、近大ゼロテン編集室で活躍中の川添陸さんが、自身の経験を語る。
「編集って、日々の習慣ですよね」
「道を歩いていても、ポスターや看板を見て情報を分節化してます」
ストイックな姿勢に、ほうぼうからため息が漏れた。
「[破]では、[守]で学んだ型を使えるから、より実践的」
ニヤリと口元をゆるめ、卒門のその先を匂わせる。
稽古の意味を互いに確認したところで、いよいよ手を動かしていく。学衆たちは、持参したパソコンをひらいて、その場で稽古を始める。3人の近大番は、それぞれが学衆のとなりに座って口頭指南を繰り出す。先達近大生も自分の回答を披露し、後輩を鼓舞する。瞬く間の40分間。近大ビブリオシアターで作られた回答は、EditCafe上の7つの教室に届けられた。
このプロジェクトを取り仕切る近大番長は、橋本英人参丞。このイベントは原則参加必須のため、参加可否の表明がない場合は橋本から電話連絡が入る。しかし、緊張は無用。
橋本は、27[守]の学衆。稽古開始早々に姿をくらまし、ラスト1週間で20題を連続回答して卒門。ロンドン五輪開催直後の2012年当時、その驚異的な追い上げは「ウサイン・ボルトがいるぞ!」と教室中を沸かせた。ボルトと呼ばれた男は、稽古から遠のく学衆の気持ちを誰よりも理解している。
次回の開催予定は、2020年1月9日(木)18:30~@ビブリオシアター内ACT114。
近大生のペンケースは、お猿さん。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。