この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

”思わず、ウルッときてしまいました。”八田英子律師が声を詰まらせた。汁講後半に、編集のおさな心に触れるこんなに嬉しい展開が待っていることを全く想像していなかった6名の学衆も画面の向こうで、大きくうなずいた。
ピノコロジスト、神尾美由紀師範代にそう名付けられた学衆の数寄の紹介から汁講は始まった。熊楠にちなんだ曼荼羅、ひよこ豆のフムス、まじわう宇和島、技術も場所も先端好き、バスケットボールのセルフ解説、気が付くと宝塚ファン、ピノコではなく”きな粉”好きとお稽古では見れない「たくさんの私」が噴出する。
学衆からの質問に、原田淳子学匠は[破]全体を俯瞰する講座マスターの日々を語り、道場にちなんだやまぶき色をまとってゲスト参加の竹川智子花伝師範は”お題の理解を深めるためにも役に立つ”花伝所の様子を紹介する。ひとしきり交し合った後、”じゃあここで”とおもむろに神尾師範代が映像を流す。タイトル画面の後、ピノコロジスト全員が”おーっ”とざわめいた。”こんにちは~”44[守]の圓尾友理師範代が笑顔で登場して学衆に呼びかけたのである。
その後、ピノコロジストが[守]でお世話になった師範代が次々に登場する。一升瓶を抱えコップ酒をあおる、川の土手から大声で叫ぶ、端正にカメラに向かって語りかける、思い思いのスタイルで、教え子を励まし、今の想いを語る。その間、zoom画面には笑い、うなずき、時にはのけぞるピノコロジストの様子が映し出され続けていた。最後に41[守]の池永月子師範代が、柔らかな関西弁で語り掛ける。お世話になっていた学衆は何度となく目頭を押さえた。
困難な時期に[破]に向かった学衆を勇気づける言葉を届けたい。2週間ぐらい前から、神尾師範代は全員に声をかけ、映像の企画を練っていた。[守]の師範代たちと神尾師範代の一等な想いに八田律師も言葉に詰まりながらの講座紹介となった。”編集学校の方法は、人の温かさも一緒に扱える方法。今度はみなさんが学衆に想いを伝えて欲しい”指導陣からの励ましを胸にピノコロジストは物語編集術へと向かうのだった。
2020年6月14日(日)
「一等ピノコロジー教室」汁講
◎33[花]竹川智子花伝師範
◎44[破]原田淳子学匠 八田英子律師 北原ひでお師範
◎一等ピノコロジー教室 神尾美由紀師範代
参加学衆: 杉浦健、三角春樹、皆川滋、他3名(敬称略)
◎映像出演:41[守]池永月子師範代
44[守]圓尾友理師範代、菅沼利彰師範代、
華岡晃生師範代、萩原裕樹師範代、
中川将志師範代、橋本高志師範代
きたはらひでお
編集的先達:ミハイル・ブルガーコフ
数々の師範代を送り出してきた花伝所の翁から破の師範の中核へ。創世期からイシスを支え続ける名伯楽。リュックサック通勤とマラソンで稽古を続ける身体編集にも余念がない、書物を愛する読豪で三冊屋エディストでもある。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。