この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

桜はピンク色の花から、緑色の葉へすっかり装いを変えた。時節が移ると変化がある。それは花伝所でも同じだ。前期をうけ、フィードバックをかけ、変化を起こす。
「エディスト練習会やります!」
花目付・林朝恵がボードメンバーに呼びかけた。前期では大きな式目改編があり、演習に注力するという方針であったため、花伝所指導陣によるエディスト記事が少なかった。しかしそれではいけない。校長・松岡正剛はどんな理由があっても千夜千冊を書き止めることはしない。書くからこそ、説明できないものを発見することができる。世阿弥は父から受け継いだ能の奥義を子孫に伝えるために『風姿花伝』を書いた。では花伝所は何を書き伝えるのか。今期、総力をあげてエディスト記事を書くことが、目標に掲げられた。しかしいざ書くとなると、何をどう書けばいいのか悩ましい。そこで、すでにエディスト記者として活躍している林によって、練習会が開催された。
指導陣が集まったのは4月11日木曜日の21時。記者未経験の師範に混ざり、所長・田中晶子や、10本以上の記事を書き、今期錬成師範から花伝師範に着替えた森本康裕の姿もあった。文章を書く際に忘れてはいけないのが、「いじりみよ」だ。多くの記事でも、この型が意識されている。「いじりみよ」にそったQが、林から次々と投げられた。
「1分間で気になる物1つ選べ」
「1分間でその物がどんな様子か描写せよ」
「1分間でその物にどんな由来があるか説明せよ」
「1分間でその物が自分にとってどんな存在か書け」
「1分間でその物とこの先どんな関係があるか予想せよ」
指導陣は投じられるQに、Zoomチャットを使い、黙々と回答していく。そしてチャットにあげた回答をもとに10分で記事に仕立て、評価を交わしあう。静かで熱いラリーを終えたのは23時を過ぎていた。
photo by shinobu hirano
▲注意のカーソルが当たった物には、エディティング・モデルが潜む。花伝師範から花目付に着替えた平野しのぶは韓国で衝動買いした壺に目をとめた。持ち帰る際、空港で手こずったというが、困難を物ともせず軽やかに飛びまわる平野の姿がみえる。
photo by kyoko arakaki
▲51[破]師範代から錬成師範に着替えた新垣香子の相棒であるコピー機。新垣が携わっている塾の子供たちにも自由に開放している。新垣の受容のカマエがここにも感じられる。
夜稽古翌日の4月12日、再びの夜。多くの花伝所指導陣が「『情報の歴史21』を読む」第12弾に参加していた。講演した能楽師の安田登氏は、「もっと、語るコトバが必要だ」と唱えた。そしてただ話すだけではなく、本楼を能舞台に変え、「コトバ」を実演した。「コトバ」を体感した指導陣は、花伝所に託されたものをどう伝え語るか、態度で示すだろう。
文 中村裕美(錬成師範)
アイキャッチ 宮坂由香(錬成師範)
【第41期[ISIS花伝所]関連記事】
「まなび」のゆくえ◆53[守]伝習座
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
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43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
今まで誰も聴いたことがない、斬新な講義が行われた。 43花入伝式で行われた、穂積晴明方源による特別講義「イメージと編集工学」は、デザインを入り口に編集工学を語るという方法はもちろん、具体例で掴み、縦横無尽に展開し、編 […]
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2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テ […]
花伝所では期を全うした指導陣に毎期、本(花伝選書)が贈られる。41[花]はISIS co-missionのアドバイザリーボードメンバーでもある、大澤真幸氏の『資本主義の〈その先〉へ』が選ばれた。【一冊一印】では、選書のど […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。