この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

<編集会議>グループワークの後、各文叢からストーリーテラーとプロモーターが登壇し、新しく生まれた物語を発表した。
白鯨大地文叢から飛び出した物語は『白蟻』。
帯は「表:大人のための日常ホラー!?/裏:バブルの終わりに高級住宅を買った家族の物語」。著者名は川江新。江戸川乱歩×星新一である。『大地』から「家族の物語」という要素を継承し、『白鯨』のエイハブ船長の狂気を重ねた。白字に銀字のペンという装丁と白蟻を連想させる点描がモダンホラーの「らしさ」を演出していた。
ニルス吉里吉里文叢の物語は『塹壕のサイバーアスリート』。
帯は「表:100年前の戦場に迷い込んだ中学生が見たものは/裏:ゲーム好きのあなたに知ってもらいたいこと」、裏表紙に「VRブースのナイチンゲール」と青字で惹句をあしらった。
スウェーデンの作家・ラーゲルレーヴが教育協会から依頼を受け教科書として書いたという『ニルスのふしぎな旅』の誕生のいきさつをアナロジー。ゲームのしすぎが問題視されるヤングアダルト世代への推薦図書として仕立て、プロモーションも先生向けのメッセージとして磨き上げた点が評価された。
三番手は百日紅ギャツビー文叢の『ボーン・カレンシー』。帯は「表:生き終えたお前の骨がまことの価値だ/裏:恋も正義も革命もすべては価値の転換だ」。赤羽綴師から「生まれるという意味のボーンにも通じて、なかなかおもしろそうですね」というコメントを受け、一同うなづく。物語は、手を離れた瞬間、読み手によって新たな意味づけがなされる。
松岡正剛校長は「どれもよいと思うよ」と目を細めた。3つの新しい物語の芽は、いずれもただの「作り物」ではなく、書き手たちが生み出してきたテキストの大地に根を張り、育っていくポテンシャルを秘めていた。「読む」も「書く」もインタースコアの賜物であり、「型」を共有しておけば、エディティング・モデルの違いを存分に交わすことができる。何より、締切の力は偉大だ。
「ハラハラしながら、させながら、おもしろかった!」大音美弥子叢衆の掛け値なしの振り返り。物語講座の仕掛けを肌で感じた1時間30分となった。
ニルス吉里吉里文叢『塹壕のサイバーアスリート』
3つの文叢から生まれた3冊の「本」
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。