バジラが斬る!南方曼荼羅の図象解読

2019/10/08(火)18:18
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 「生物とは秩序化した状態である」。そう聞くとぎょっとするかもしれない。
 「先生物には空気や水は必要がない。鉱物さえあればよかった」。これは生物学の講義ではない。輪読座「南方熊楠を読む」での言葉である。最終講義のテーマは「熊楠の粘菌と曼荼羅」。9月29日13時から、本楼で第六講が行われた。
 
  
五界説の図
 
 輪読師・バジラ高橋秀元の図象解読は、21世紀の生物系統樹は再編されはじめているという話題から始まった。20世紀半ばまではモネラ界、原生物界のベースに動物界、菌界、植物界のクラウングループがあるという五界説であった。21世紀の生物系統樹の大変換仮説では、動物界(ユニコンダ)と植物界(バイコンダ)の両大グループに分けられる。これは精子の鞭毛が一本か二本による分類だ。では、全真核生物の最も深いルートは何か。原生物やその交合による発生を見極めたいということが、熊楠が原形体が非常に大きいと思われていた粘菌研究に没頭した理由でもあった。(菌学に関する南方先生の書簡:全集巻6より)。
 
 

南方曼荼羅
 
 「我々に認知されない世界は空。しかし空は存在する」。
 南方曼荼羅と呼ばれる熊楠による図の点と線をバジラは独自に解読してみせる。バジラは、巷の解説者たちがすっかり有名になった萃点ばかりを重要視することの愚かさを厳しく指摘した。萃点は情報の波動がたまたま多く交差することで我々が認知し、予測しやすい状態になっているもの。西洋科学はそのわかりやすい萃点だけをみて因果を解読するものに留まっているというのが熊楠の見方だ。
 熊楠の意図の本来は萃点の強調ではなく、情報世界の全体像の描出にあった。南方曼荼羅のヌ線は認知の限界線を示し、ル線は日常認知世界の境界線を示す。ル以上は認知を超えた未知宇宙を示す。変形螺旋状に描かれた線は下降しながら世界の場を形成している。区切られたそれぞれの場は華厳の認識構造に基づいた、物不思議(ヌとルの間)、事不思議、心不思議、理不思議、大不思議を現す。「不思議」というのは謎、未知。よくわかっていないことと思ってもらうといいだろう。その不思議が物質にも、事象にも、心理にも、筋道にも、すべてにもある。それが世界と見ることが前提だ。
 
 5時間に渡る解読と輪読のあと、輪読座「南方熊楠を読む」を修了した輪読衆には、ひとりずつバジラ高橋が作成した「読み切り感状」が贈られた。次回は10月から半年に渡って、輪読座「熊沢蕃山『三輪物語』を読む」がスタートする。日本陽明学がいかに確立し、明治維新の精神基盤となっていったのかを解読する最初で最後の機会になる。
 輪読座詳細はこちら
 
 
輪読衆 瀬戸義章が持参した日本酒「南方」
  • 吉村堅樹

    僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。