秘密のサンタクロース◢◤[遊姿綴箋] リレーコラム:山本春奈

2023/12/22(金)08:30
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▼チョコレートプラネットの「【記録映像】悪質クレーマー『サンタが来ない!』というコント、ご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。Youtubeで見られます。

 このコントのタイトル、よく読むとキュンキュンしませんか。いかついオジサンが区役所にやってきて、「うちの子のところにサンタが来ない!役所は何やってんだ!」と喚くんです。困り果てた職員が、「サンタっていうのは、実は親がフリするもので……」と、隠されてきた真実を慎重に開示していく。「そんなこと学校で教わらなかった!」と驚愕するオジサンを見ながら、「サンタという秘密」の甚大さにゾクっとしました。

 

▼夜のうちにサンタクロースがやってきて、枕元にプレゼントを置いて去っていく。その舞台裏を秘密にするために、大人たちは社会全体で結託しているようにすら思えます。家庭の域を超えた連携プレー。この連帯力は、いったいどこから湧いてくるんでしょうか。

 

▼レヴィ=ストロースの『火あぶりにされたサンタクロース』をご存知の方も多いと思います。1951年、フランスはブルゴーニュのディジョン大聖堂で、サンタの人形が「異端の象徴」として火刑に処せられた事件。この珍妙な出来事を前に、レヴィ=ストロースもペンをとらずにはいられなかったと見えます。火あぶりを執行した聖職者たちは至って真面目で、サンタのせいで神聖なクリスマスが異教化し、馬鹿騒ぎになっていることを告発したのだそう。

 こんな話を聞くと、サンタって何だか傾国の美女のように蠱惑的な存在なのかと思えてきますよね。

 

▼サンタクロースは、子供達の笑顔のために気前よくギフトをばらまく妖精。だけど贈与経済の常識が教えるとおり、贈り物は「もらいっぱなし」はできない仕組み。だからかつて子供だった誰もが、大人になったら今度は自分がサンタになって、もらったものを”pay it forward”しなきゃならないんですね。それを知らずに大人になると、区役所でクレーマー扱いされてしまう。

 

▼大人と子供を架け橋する「贈与循環の象徴」なのだとしたら、サンタさんにはぜひ今後も大いにご活躍いただきたいところです。貨幣経済にもポリコレにも負けずに、この時代を生き延びて欲しい。

 いまや宗教多様性の観点から「メリー・クリスマス」さえ言いづらくなった世の中だけど、赤服白髭の贈与おじさんには、市民権が与えられてもいいんじゃないでしょうか。だって、一時は火あぶりにまでされたんだもの。もはやキリスト教専属とは言い切れないですよね。もしかして、クリスマス専属じゃなくたって、いいかもしれない。市場経済の馬鹿騒ぎの中を、颯爽とソリに乗って駆け抜ける贈与オジサン。そのマル秘存在を手放さないまま、資本主義の先に向かう社会だったら、いいな。

 

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遊刊エディスト新企画 リレーコラム「遊姿綴箋」とは?

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  • 山本春奈

    編集的先達:レオ・レオーニ。舌足らずな清潔派にして、万能の編集ガール。定評ある卓抜な要約力と観察力、語学力だけではなく、好奇心溢れる眼で小動物のごとくフロアで機敏な動きも見せる。趣味は温泉採掘とパクチーベランダ菜園。愛称は「はるにゃん」。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。