着物のまにまに~時空センスの編集術 #5 二項バランスがすべて

2021/09/26(日)08:00
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みなさん、こんにちわ。森山です。

 

季節が秋にうつりましたね。木々や街のファッションの色々の、劇的な「うつり」を堪能したくなって、もっともっと溺れたくなる季節です。

 

さて、着物まわりのお話に「かさねの色目」ということがあります。

かさね色目が行われるようになったのは平安時代からですが、季節ごとの自然の植物の色合いを衣服に配彩して「季」が移ろいゆくことに自分自身を同化させていきました。

 

シンクロするのは心地良きこと。

 

と、古代の人はちゃんとわかっていたのですね。

 

旺文社『古語辞典』より

 

さまざまな色の組合せがありますが、この「かさねの色目」において一番のポイントは「配分」。

だって平安時代の装束は「面」で勝負していましたから。

 

かさねの色目「檀(まゆみ)」

 

かさねの色目「檀(まゆみ)」

『かさねの色目』平安の配彩美 長崎盛輝

 

こうしてバランスをズラしてみると、受ける印象が全然かわります。
なんともないと思っていたこの組み合わせが、とても新鮮に心に映ります。

 

 

そのまま、辛子色の紬とモスグリーンの水玉の帯を持ち出して、色の配分をかえてみます。(帯は洋服生地からのお誂え)

辛子色の紬とモスグリーンの水玉の帯

AからDへ帯締めと帯揚げを取り替えて行くうちに、黄色の配分が増えて緑の濃縮度がさらに増して「珍しい」感じになりました。


檀(まゆみ)の紅葉なので、バッグまたはハンカチなどに紅葉の赤色を挿してもいいかも。

 

 

こんな風に、配分による違いをしっかり掴んでいることで、色と色の組み合わせそのものの編集の自由度があがります。「配分」の方法を持っていれば、別様の可能性を実現できる確率が上がり、どんな色同士でも合わせることができるようになるんです。

 

つまり、身の回りにあるものの「すべての色たち」が「かさねの色目」になっていき、カラー診断や人から勧められる「あなたに似合う色」という束縛からも自分自身を自由にしてくれます。
だって世界にシンクロする(似ていて合う)色がフューチャーされている着物なら、それに応じた「その時だけのわたし」が共鳴しだすのですから。

 

 

*檀(まゆみ)
強く、よくしなるため古来より弓の材料に用いられました(真弓)。

秋になるととても美しく紅葉します。

 

あづさ弓ま弓つき弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ

(伊勢物語 24)

 

  • 森山智子

    編集的先達:和泉式部。SE時代にシステムと着物は似ていることに気づき開眼。迷彩柄の帯にブーツを合わせる、洋服生地を帯に仕立てる等、大胆な着こなしをはんなり決める。イシスにも森山ファンは数多い。
    2025年春の多読アレゴリアのクラブ開講に向けて準備中。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。