『文化資本の経営』×3×REVIEWS

2025/02/25(火)09:10
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 松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「× REVIEWS」。
 今回は、デザイナー界隈の中でも注目が集まっている、文化が主役の経営にフォーカスした『文化資本の経営』(NewsPicksパブリッシング)を取り上げます。推薦者は、チーム渦のメンバー・柳瀬浩之さん。「人材育成も組織開発も、企業文化に影響されます。でも、目に見えない文化って、操れるものなんでしょうか」。


『文化資本の経営』××REVIEWS

 

  • 1 文化も人もミクスチュアート

1章 文化経済の時代の到来 

2章 新しい経営アイデアが湧いてくる場所 

 

企業経営において資本といえばお金だ。だが本書は、お金の代わりに文化を資本とする経営のコンセプトを打ち出した。現在から四半世紀前のことである。なぜ文化は、企業活動の元手になりうるのか?

かつて、文化は見えづらく、経済的に換算しがたく、商売にならないとされた。しかし現代では、より文化的な満足の得られるものが求められている。

見えづらい文化は、すでに私たちの中にある資本である。言葉で語り、表象し、場をつくり形成していくものだと著者は言う。そうやって異質な物事との出会いによって生み出される文化では、混交による葛藤も対立もふんだんに生じる。それこそが文化資本の原動力になる。そもそも人もその他の生命体も、自他非分離状態の場所に根拠を置いて生きているのだから。

見えない価値を信じ、相互に関係しあう場でこそ「何かが起こる」という期待が生まれる。その出会いを、まるで師範代のように自覚的にマネジメントしようとする。それが文化資本の経営だ。(大濱朋子)

 

  • 2 企業は述語によって主語を広げよ

3章 世界を丸ごとデザインできる経営を

4章 文化資本経営は新しい環境空間を演出する

 

文化を資本にして「期待」を生み出す。ではその文化とは何だろう? 日本企業が目を向けるべきは、母語である日本語だ。

 日本語は述語の言語だ。「きれいだね」と言えば誰がどういうメッセージを送っているかが分かる。この述語的なモデルを企業は経営に活かすべきだ。

例えば「展覧会を開きたい」は主語が強すぎる。「我が社が」「社長が」と主語の意志が気になってしまう。「展覧会を開きます」くらいにすると、「我が社が根付いたここで」「これが気になる関係者で」と参加者が増える。述語が意志を持ち始める。

述語的意志は、個ではなく場を動かす。このとき、主語が曖昧だからといって、主体は何も引き受けなくていいのだろうか? 否。企業とはその時代と地域の語り部である。「耕す」と言うだけで春のあらゆる事物を語る季語のように、伏せられた主語の大きさを述語で担う。これが文化資本経営だ。(吉居奈々)

 

  • 3 物語マネジメントという方法

5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か

補章 文化資本経営の理論

 

企業が述語的な意志を持つことめざすならば、舵取り役の経営者はどうか。自身も経営者である柳瀬は、何をめざす?

「物語の舞台という水槽の中のキャラクターを観察し、小説を書く」。これは、芥川賞作家、村田沙耶香氏の方法である。この方法が、これからの経営のヒントになる。そう思った。

リーダーの必読書の1つに「人を動かす」(D・カーネギー)がある。しかし、そもそも「人を動かす」という言葉には、リーダーの意図通りにメンバーを動かしたいという前提があるが、本書では、こうした管理統制する企業の時代は終わったと言う。「社員が社会的生命力をもつように場づくりをせよ」と。言うは易しだが、では「人を動かす」のような具体的な方法論があるのか。そのヒントは物語創作の方法にある。顧客や社員が多様なアクション・コミュニケーションを起こす舞台を創造する。これが文化資本経営だ。(柳瀬浩之)

 

『文化資本の経営 これからの時代、企業と経営者が考えなければならないこと』

福原義春/文化資本研究会 著/NewsPicksパブリッシング/2023年12月26日発行※1999年刊行の書籍を復刊/1,980円

 

■目次

巻頭解説 佐宗邦威

文化資本経営が企業の未来を切り開く――はじめに

1章 文化経済の時代の到来 

2章 新しい経営アイデアが湧いてくる場所 

3章 世界を丸ごとデザインできる経営を

4章 文化資本経営は新しい環境空間を演出する

5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か

補章 文化資本経営の理論

 

■著者Profile

福原義春(ふくはら・よしはる)

1931年東京生まれ。1987年、資生堂の代表取締役社長に就任。直後から大胆な経営改革、社員の意識改革に着手し、資生堂のグローバル展開をけん引した。2001年名誉会長に就任。企業の社会貢献、文化生産へのパトロネージュなどに尽力した。著書多数。2023年8月、92歳で逝去。

 

出版社情報

 

  • × REVIEWS(三分割書評)を終えて

「リーダーは企業文化をどうしたら操れるのか」。この問いを持って、本書と向き合った。ただ早々に自分の傲慢さに気づいた。「操る」ではない。問うべきは「文化を資本として活用するには、どのような場づくりが必要か」である。人ではなく、場をマネジメントするのが、これからのリーダーの仕事なのだ。(柳瀬浩之)

 

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。