【田中優子の学長通信】No.02 花伝敢談儀と新たな出発

2025/02/01(土)08:00
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 1月25日、今年も花伝敢談儀の日がやってきました。

 「今年も」なんて書きましたが、実は私は初めて出席したのです。今まで諸コースを巡り、最後に残っていた「花伝所」をようやく受講し、終えました。

 

 敢談とは「あえて語る」ことです。花伝所は師範代になるための修行の場ですが、その修行はインターネット上でなされてきました。その最後に、師範代の資格を得て認定書をいただいた学衆が、本楼に集まるのです。師範代の資格を得た人たちを放伝生と呼びます。「花伝所」の「伝」から放たれて、次の世界に飛び立つ、という意味ですね。今年は42回目ですので、42花放伝生というわけです。

 

 その放伝生がこの日ばかりは、互いに直接会い、言葉を尽くして語り合います。花伝所の最後には、1冊の本を使ってそれぞれが絵図を描きます。今年は『千夜千冊エディション 芸と道』(松岡正剛、角川ソフィア文庫)でした。同じ本からどうしてこうも違う絵図が生まれるのか、と思うほど多様な絵図を見ながら、それについて師範と放伝生が対話をします。私が描いた絵図は、「存在」と名付けられた球体が相互編集する宇宙です。私にとって松岡校長はこの世に生きて私たちに多くの方法を残していってくれた人であると同時に、その存在がいまでも球体として、宇宙を自在に自由に、のびのびと、飛び回っているのです。命がなくなっても私の中に、イシス編集学校の中に、編集工学研究所の中に、その存在はあり続けています。

 

 この日は偶然、松岡正剛校長のお誕生日でした。もしここにいらしたら、敢談儀出席者のプレゼントや花やお菓子で、校長は埋まっていたかも知れません。お線香をあげながら私は、1994年、オックスフォードにいた時にイギリスから贈った、誕生日のプレゼントを思い出していました。それは「星」でした。まだ名付けられていない星が宇宙にはたくさんあって、それに名前をつける権利を買えたのです。私はその中のひとつに「Seigo」という名前をつけ、星の位置を示すカードにして贈りました。きっとその星はまだ宇宙のどこかにあります。

 

 私自身がこの日、放伝生になりました。ひとりひとり、師範代になって「守」の学衆たちを指南するかどうか、問われました。私は今はこの編集学校を外に伝える役目をもっているので、そこに集中すべきだと考えていましたが、この日、42花放伝生たちと一緒に語り合う中で、迷いに迷いました。本楼の魔法にかかったようでした。

 

イシス編集学校

学長 田中優子

 

 

ISIS花伝所での演習を修了(放伝)すると師範代認定証が師範から授与される。しろがね道場で切磋琢磨した仲間たちとともに。道場での指導にあたったのは、岩野範昭花伝師範(左)、渋谷菜穂子錬成師範(右)、大濱朋子錬成師範。

 

 

田中優子の学長通信

 No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)

 No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)

 

アイキャッチデザイン:穂積晴明

写真:後藤由加里

  • 田中優子

    イシス編集学校学長
    法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。