多読ジム×倶楽部撮家 第5弾《一人一撮 edit gallery『ことば漬』》

2024/10/15(火)13:00
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 おそらく、千夜千冊エディションの中でも『ことば漬』の表紙はかなり異色だろうと思います。濃いピンクに黄色の吹き出し。これはこれで出来上がっていて、主張が強く日常の風景に簡単には溶け込みそうもない一冊です。

 

 多読ジム×倶楽部撮家《一人一撮 edit gallery》第5弾(2024年夏・Season19)は『ことば漬』に挑みました。さて、どこでどうこの一冊を撮影しようか?ちょっとどこかに持って行って、気楽にパシャリとするだけではおさまる本ではない。それゆえに今回はいつにも増して、連想や見立てをして撮影に臨んだエントリーが多かったように思います。それではエントリー9作品を見ていきましょう。

 

 

「ことば漬けを食べる朝」重廣竜之

 ひと目見て面白いなと思いました。実際の食卓に漬けものよろしく『ことば漬』を並べた重廣さんの作品。アプローチはストレートですがアクリルブロックにはいろは歌のステッカーを貼るという凝りよう。食べ物と皿の色を茶色にしたことでポップな表紙が際立ちます。それでも写真が沈まないのはパステルなテーブルクロスの配色が効いているからでしょう。タイトルが「朝」なのに光が夕食っぽいのがちょっと惜しい。朝日の中で撮って欲しかったかな。

 

「おいしく炊いて食べるべし」松井路代

 食べ物で何よりもお米が好きという松井さんはさらに直球で潔いアプローチです。本を漬けものに見立てたのだろうと思いきやどうもそうではないようです。お米も言葉も「味わう」という共通点を見出し、お米≒言葉として撮られた一枚。『ことば漬』を味わった後の青い付箋もスパイスになっていますし、帯の「はじめちょろちょろなかぱっぱ」へのアプリシエーションも感じられます。これはこれで潔いですが、お箸を一膳添えるなどちょっとした洒落があるとさらに味わい深くなりそう。

 

「環世界の核」和泉隆久

 毎回楽しみにしている和泉さんの作品。ヴィヴィッドで漫画っぽい表紙と、全体としてパキッとした直線的な仕上がりは相性がいいなと思いました。主題の本に目線を集中させるために、地の色をグレーで統一したところも画づくりの意図を感じます。ことばが違えば、見る世界が変わるという意味で鏡を使い「環世界」を表しました。せっかくですので配置を計算し尽くして『ことば漬』万華鏡と言えるくらいの一枚も見てみたい。(期待を込めて)

 

「離」船山一樹

 船山さんはカラフルな表紙をあえて封印。タイトルページを一枚破って掛け軸と。思い切った作戦です。掛け軸は皆川淇園の<易経>だそうです。『ことば漬』の中でも「第三章 日本語の謎」へのオマージュなのだろうと思いました。アンダー気味に撮影した方針もこの掛け軸に合っています◎ 掛け軸に力があるのでそちらが主題になってしまった感もあるかな。『ことば漬』を主役にしたらどう撮りましょうか。

 

「天からのおくりもの」大澤正樹

 書は書でもご自身で書かれたのは大澤さん。「天」という一文字を松岡校長に捧げます。こうくるともう何も言えない気持ちになるのですが、あえて一つツッコムとすると自然光か外で撮影すると「天」の一字に込めた思いがより深みを帯びてくる気がしました。

 

「文字だけ辞だらけ」戸田由香

 この企画に初参戦の戸田由香さん記念すべき一枚。白川静『字通』と中島敦『文字禍』とともに。そうそう、最初はこれでいいんです!そのうち飽き足らなくなって色々と試してみたくなることと思います。白川静を持ち出すのであれば、あの分厚さもいっしょに撮れると『字通』であることが伝わりやすいでしょう。次のトライもお待ちしてます!

 

「アートと言葉」北條玲子

 「言葉は先人が作り上げたもので、手作りで、長い年月を経て磨かれたもの」とシソーラスを広げてたどり着いたのはウィリアム・モリスでした。もっと古い日本っぽいものではなく、ウィリアム・モリスをチョイスされたところに北條さんの数奇が込められているのだろうと思いました。これは西日で撮影されているのでしょうか?だとしたら、例えば長い影をあえて作り、長い年月を影で表現するのも一手かもしれません。歴史的現在をもう少し感じてみたかったというリクエストです!

 

「こかげにことのは」細田陽子

 カツラの木で一休みする鳥に見立てて撮影されたのは細田さん。「カツラの枝と葉には、連なることばに宿る意味と力の暗示がある」のだそうです。ほうほう。ページを鳥の羽根に見立てたのは面白いですね。煽りで撮影しているのも空を目指す鳥目線のようで◎です。惜しむらくはタイトルが見えにくく、本も影で隠れてしまっているところ。でも本を何かに見立てる遊び心はとてもいいので引き続き挑戦してみてください。

 

「言葉よ、安心して燃え上がれ」畑本浩伸

 空から足元に目線を落とすとそこにはマンホール。何はともあれこのシンメトリーな配置に畑本さんらしさを感じずにはいられません。「漬」から「貯」を連想し、「火」は「はじめちょろちょろ」の焚くイメージ。だとすると赤いポストイットは火を見立てているのかしら?であれば天地を逆さにして「火」を下にした方がさらに収まりが良かったかも。

 

 

 撮影するには難題の『ことば漬』ですが、開けてみれば思わぬ連想を広げている方も多く、予想以上に編集方針が多様だったように思います。言い換えれば、やはり編集方針を立てないと撮りづらい一冊であったとも言えそうです。2枚目、3枚目とバージョンを撮るならどうするか、挑戦しがいのある相手であることは間違いないでしょう。引き続き、被写体としても向き合ってもらいたいエディションです。

 さて、次回はいよいよ当企画の最終回。Season20では『数学的』に挑みます。次号の公開もお見逃しなく。

 

 今回のエントリー作品はイシス編集学校Instagramでも近日中に公開します。あわせてご覧ください。

 イシス編集学校Instagram(@isis_editschool)

 https://www.instagram.com/isis_editschool/

 

 

おまけ

 『ことば漬』を繁華街の看板に見立てて、夜の街っぽく仕上げてみようと試みたのがアイキャッチ画像です。頭の中のイメージではサイバーパンクっぽく仕上げたかったのですがやはり限界があったのは言うまでもなく。

 

 

Back Number

第4弾《一人一撮 edit gallery『ことば漬』》

第3弾《一人一撮 edit gallery『資本主義問題』》

第2弾《一人一撮 edit gallery『性の境界』》

第1弾《一人一撮 edit gallery『物語の函』》

アイキャッチ画像:後藤由加里

 

 

  • 後藤由加里

    編集的先達:石内都
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。