この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

◉No.1『なら梨とり』稲田浩二・稲田和子(編著)/三省堂具合の悪いおっかあのために梨を取りにいく道中、鬼婆に囚われそうになった三兄弟が力をあわせ、鬼婆を退治する。兄弟が団結できて病気の滋養強壮にもなる。梨の素晴らしさを伝える一冊なっしー。
◉No.2『模倣の法則』ガブリエル・タルド/河出書房新社
◉No.3『擬 MODOKI: 「世」あるいは別様の可能性』松岡正剛/春秋社
くまモン、ひこにゃんの二番煎じ?いや、ふなっしーが追うモデルは別様だ。「風の谷のナウシカ」の勇敢な剣士であり、ハードロッカーのブラック・サバスであり、災害の苦しみにも負けず実直に生きる千葉県民なっしー。
◉No.4『南総里見八犬伝』曲亭馬琴/岩波書店
138年生まれの梨の妖精が2011年、日本、船橋市に降りた。様々な危険を冒した先達の例とふなっしーを重ねて読まれたい。何といっても『八犬伝』は房総が舞台だっしー。
◉No.5『ふなふな船橋』吉本ばなな/朝日新聞出版
作家のモデルとしても降臨。生きるということは、涙がこぼれそうになるのを食い止めたり、呼吸が苦しい時間にも寄り添ってくれる存在がいること。デビュー作『キッチン』以来、不変のテーマを書き続けるばなながずっと投影してきたもの、それがふなっしー。
◉No.6『ガリヴァー旅行記』ジョナサン・スウィフト/岩波書店
船橋市民を地にすると、異質の生物が降り立った恐怖。ふなっしーを地にすると、良かれと思って行う行為が裏目にでる切なさなっしー。
◉No.7『エンデの遺言「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳 /NHK出版
ふなっしーのグッズの幾つかは宮城県、南三陸のミシン工房で作られている。そのほか、イベントの売り上げは被災地に寄付される仕組みがされている。復興、社会に還元するお金の価値を考えるべきなっしー。
◉No.8『自分の仕事をつくる』西村佳哲/筑摩書房
一個梨で始めた勝手に船橋活性化活動。キワモノ扱いされ、いじられ続けながらテレビ出演で人気爆発。笑いに徹しながら自分の思いを貫いた仕事ぶりをご覧くださいなっしー。
◉No.9『しんがりの思想 反リーダーシップ論』鷲田清一/KADOKAWA
◉No.10『千の顔を持つ英雄』ジョセフ・キャンベル/人文書院
武道館で単独ライブをするまでの人気と名声を手にしたふなっしー。しかし、過労がたたり現在は再び地元の船橋に戻る。本来念願だった船橋市民の信頼を得て、自分が表に立つだけでなく、地域の子どもたちを楽しませる活動を続けている。真の目的を掴んだふなっしーは英雄の帰還をとげたといえるなっしー。
1月からスタートした<多読ジム>season01で、冊師というロールを受け持っている。 総勢100名超の読衆が9人の冊師のもと、それぞれのスタジオで本を選び、読書をする。目次読書から著者のメッセージへ思いをはせ、マーキングを凝らし、仲間が選んだ本にインスピレーションを得る毎日だ。
<多読ジム>にはスタジオのほか、全員が集うことのできる【書院】という交流の場がある。【書院】は、かつて松丸本舗のブックエディターをつとめた大音美弥子冊匠がジムに集まる読衆と冊師を見守っている。冊匠(さっしょう)という危ういロール名とは裏腹に、昼夜問わず注げられる本と著者、そして読み手への深い愛にひざまずきたくなる。
先日、【書院】あてに美弥子冊匠から「多読な十選」というお題が届いた。贈りたい相手を決めて10冊の本を選び、メッセージを添えるというこのお題、相手は身近な実在する人物でも良いし架空の人物でも構わない。本読みが進まない自分自身、子育て中のママ、叔父から甥っ子へ、はたまたイギリスを離れる話題の王子だったり、渦中のカップルなど贈る相手はさまざまだ。わたしも誰にプレゼントをしようか、ああでもないこうでもないと考えながらテレビをつけたとき、目に入ったのが淡いブルーとイエローのあの姿。
ふなっしーだ。
ふなっしーは数年前、ゆるキャラブームの渦中にいた。トークも自在、芸能人にも臆しない彼(?)はタレント活躍を成し遂げテレビ番組、出演やCMにもひっぱりだこ。CDアルバムを販売し、武道館でライブをすれば満員御礼。オジー・オズボーンらとともにメタルロックの野外フェスにも出演した経験ももつ。なお、<多読ジム>とオジー・オズボーンは、遊刊エディストQUIM JONG DAE副編集長によってインタースコアされている。ご覧いただきたい。
そんなふなっしーの来歴はというと、3.11以降の東北や千葉の役に立ちたいという野望をもち、勝手に「地域活性化活動」を始めたという。気持ち悪い、うるさいと嫌がられたり、船橋市役所でたらい回しにされても、単独で路上パフォーマンスを行い、動画を配信しSNSで声を発信し続けた。
ひとり(ひと梨)で地道に路上で活動していたふなっしーが成功を遂げたのも、あちこちに目を配る迅速な察知力と自分を俯瞰できる客観性からだと思う。くまモンのビジネススキルを学び、ひこにゃんの愛らしさに敬意を払う。偉ぶらず、常に低姿勢。相手の伝えたいことをしっかり引き出す姿は、編集学校の懐の深い師範のよう。でも、ちょっと目立ちたがり、時に口が悪く暴れんぼうになる様子は少しやんちゃなタイプの師範代をほうふつとさせる。
ふなっしーは現在、千葉県内で子どもたちや市民を楽しませている。熱狂的なふなっしーフィーバーがひと巡りしたいま、ふなっしーを一発屋だと思っている人へ、彼のしてきたことを知らせたい。
押しつけがましく見えるわたしのメッセージも本を通してみると、ふなっしーの功績を伝えることができるかも。
【書院】へ10冊を届けたのち、美弥子冊匠からは「これまでの人生で一番ふなっしーのことを考えました」というコメントをいただき、大満足だった。
さあ、あなたなら誰にどんな10冊を贈る?
<多読ジム>Season02は、2020年4月にスタートする。
https://es.isis.ne.jp/gym ※<多読ジム>は突破者のみ受講可能。
増岡麻子
編集的先達:野沢尚。リビングデザインセンターOZONEでは展示に、情報工場では書評に編集力を活かす。趣味はぬか漬け。野望は菊地成孔を本楼DJに呼ぶ。惚れっぽく意固地なサーチスト。
【5月22日参加募集中!】ISIS FESTA SP多読アレゴリア・武邑光裕篇 「記憶の地図と書物の新世紀」~21世紀のアルスとムネモシュネアトラスへ~
現代において、生成AIの進化は、私たちの記憶のあり方に大きな変化をもたらしつつある。中世以降、「記憶術」は記憶に場とイメージを刻み込み、個人の内的世界を構築するアルス(技術)であったのに対し、生成AIデバ […]
SUMMARY 私たちが食べてきたものとは何か。思い返すとそこには過ごしてきた日々の記憶がつき纏う。例えばおやつには家族や友人とのエピソードが潜んでいて、おやつを前にすると誰もが子どもの表情に戻る。小川糸が紡ぐ生死が混 […]
【三冊筋プレス】ブルーとイエローのプロジェクション(増岡麻子)
それは「うつ」だろうか ロシアのウクライナ侵攻、安倍晋三元首相銃撃事件、2022年は悲惨な事件や事故、戦争の映像を多く目にした一年だった。否応なしに目に入ってくる悲惨な場面に心が疲弊した人も多く、私 […]
本から本へ、未知へ誘う「物語講座」&「多読ジム」【79感門】
感門之盟の終盤、P1グランプリの熱も冷めやらない中、木村久美子月匠が、秋に始まる【物語講座】と【多読ジム】を紹介した。 このふたつのコースは守・破の集大成ともいえる。「師範、師範代経験者にこそ受講して、共に […]
<多読ジム>Season10・春の三冊筋のテーマは「男と女の三冊」。今季のCASTは中原洋子、小路千広、松井路代、若林信克、増岡麻子、細田陽子の面々だ。男と女といえば、やはり物語。ギリシア神話、シェイクスピア、メリメ、ド […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。