一挙公開!エディストライターが選ぶ「夏に読みたい千夜千冊」

2022/08/21(日)11:54
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 新潮文庫の100冊、カドブン夏フェア、集英社のナツイチ。夏読書の羅針盤に各出版社の選書を参考にする人もいるだろう。エディストではナツイチならぬ「ナツセン」(夏に読みたい千夜千冊)と掲げてエディスト連載ライターがこの夏の1冊を選んだ。
 予想を反してか、それともこれが「ナツセン」らしさなのか、示し合わせたように「科学道100冊」のような顔が多く揃ったのは意外であった。(いや、それとも順当か?)
 ISIS編集学校インスタグラム開設を記念して連載した「ナツセン」をエディストで一挙公開します。夏の栞にどの一夜とともにしますか?

 
◇ 0616夜『白亜紀に夜がくる』ジェームズ・パウエル
選者 松井路代(多読ジム冊師、連載「編集かあさん」)
 猛暑だ。けれど、寒冷化はいつだって突然起こりうる。白亜紀、小惑星が地球に衝突し、長くて暗い夜がやってきた。恐竜絶滅に学び、全天を常時チェックするATLASが2015年から開始された。和訳すると「小惑星地球衝突最終警報システム」。夏空の見方が変わる。
 
 
◇ 428夜『地球幼年期の終わり』アーサー・C・クラーク
選者 深谷もと佳([花伝所]花目付、連載「週刊花目付」)
 その姿は未来の地球から逆流する「未来の記憶」だった。酷暑の底で地球からも意識からも離脱するなら、クラークのSFと連れ立ちたい。真夏の夢想は追憶と混淆し、ワタシとセカイの界面を曖昧にするだろう。
 
 
◇ 1001夜『エレガントな宇宙』ブライアン・グリーン
選者 後藤由加里(師範、連載「10shot」)
 夏の夜空を見上げると地球が自転していることと、これまで宇宙と奮闘してきたサイエンティストのことを思う。2016年の夏は[離]受講中でアタマの中は宇宙でいっぱいだったからだ。本書は宇宙論を理解するため、というより仮説から導き出す見方のサイエンスに溺れるために。
 
 
選者 小倉加奈子([離]析匠、連載「おしゃべり病理医」)
 夏と言えば夏休み、夏休みと言えば自由研究。自由研究と言えば観察日記。ということでこちらの千夜を紹介したい。シダにぞっこんの著者によるシダの魅力あふれた一冊で、自由研究のヒントもいっぱい。自由研究と言えど侮るなかれ。そのプロセスは大きな企画にも病理診断にも通じるもの。観察力と分析力と想像力の合わせ技がミソである。ちなみにシダに似た形を作るがん細胞っていっぱいあるんですよ。
 
 
選者 米川青馬(多読師範、連載「擬メタレプシス論」)
 2020~2021年のコロナ禍、気楽に外出できるのは区民農園だけでした。モンシロチョウは畑のアブラナ科の天敵で、つまりは敵を知るために手に取った一冊です。チョウが集団で海を渡っているところ、見てみたいですねえ。
 
 
◇ 317夜『悲しき熱帯』レヴィ=ストロース
選者 木藤良沢(師範、エディストカメラ部)
 やりたいことややるべきことがあれこれとたまっていて締め切りがせまっている。ならば、やりかけのいろいろを振り返ってみるのがいいかもしれない。「答えのない問い」と「問いのない答え」はつながりたがっている。
 
 
◇ 0004夜『皇帝の新しい心』ロジャー・ペンローズ
選者 堀江純一(千離衆、連載「マンガのスコア」)
 読むのに歯ごたえのある難読本は一日数ページずつ、ちびちび読むより、まとまった時間を取ってイッキ読みするに限る。夏休みなんて、そういう本を平らげるチャンス。数日かけてイッキに読めば極上のめまい体験が得られるだろう。
 
 
◇ 0485夜 『檸檬』梶井基次郎
選者 林朝恵([花伝所]花目付、連載「松岡正剛映写室」)
 正体不明の怒りが沸き起こった時、檸檬を思い出す。遠い夏、友人の机に置かれた檸檬は行き場のない感情を引き受けていた。えたいの知れない不吉な塊というのは、きっと誰の心にもあるのだろう。
 
 
選者 太田香保([離]総匠、連載「OTASIS」)
 夏の読書は日本の戦争を読むと決めている。本書は昭和日本をテロと謀略に塗れさせた日蓮主義者の暗躍と苦悩を活写した傑作。読み始めると止まらない。日本に政治と宗教の問題が急浮上し、松岡正剛がついに『立正安国論』を千夜千冊した今夏こそ、もう一度突貫読書したい。
 
 
選者 吉村堅樹(遊刊エディスト編集長、連載「おっかけ千夜千冊ファンクラブ」)
 夏は戦争の季節だ。原爆が落ち、日本は敗戦した。沖縄戦は実際には春から初夏にかけてなのだが、夏の訪れとともに沖縄のことを想う。この千夜では100のシーンで、敗戦から現在まで続く沖縄の基地問題が取り上げられた。夏は沖縄に象徴される戦後日本を考える格好の時なのである。
 
 
◇ 0334夜『鳥の歌』パブロ・カザルス
選者 上杉公志(師範代、連載「Just記事」「輪読座」)
 頑固で職人気質なカザルスの生き様に惚れ惚れする一夜。ジュリアン・ロイド・ウェッバー氏の編集と池田香代子氏の訳で編まれた言葉は、ブルーハワイかき氷のように爽やかな口あたりで、それでいて頭にズキンと染みわたります。
 
 

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写真
林朝恵『海をわたる蝶』『悲しき熱帯』『基地はなぜ沖縄に集中しているのか』『鳥の歌』
木藤良沢『地球幼年期の終わり』『エレガントな宇宙』『シダの扉』
後藤由加里『白亜紀に夜がくる』『皇帝の新しい心』『檸檬』『化城の昭和史』
 
  • 後藤由加里

    編集的先達:石内都
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。