平成を編集するー『情歴』エディットツアー10shot

2024/05/12(日)08:02
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 近過去はぼやけて見えるという。あまりにも近くにあるものにはピントが合いづらいように、時代を振り返る行為においても同じことが言えるようだ。令和を迎えて、昭和という時代がさらに色濃く見える一方、平成はどうだろうか?どこかぼんやりして見えているのではないだろうか?

 

 

 4月7日に本楼で開催したエディットツアー特別編は、ナビゲーターに編集工学研究所の橋本英人が立ち『情報の歴史21(情歴)』を用いて、イシス式クロニクル編集ワークを行いました。中高で歴史を教えてきた師範バニー蔵之助(バニー師範)が強力なサポーターとして、企画から立ち合います。実は『情歴』を使ったエディットツアーは今回初めて。バニー師範の「近過去はぼやけて見える」という一言から、「平成」をテーマにすることがするすると決まり、橋本がそこから一気にワークに仕立てていきました。

 初めての『情歴』エディットツアー、当日の様子をフォトレポートでお届けします。

 

本楼では平成コーナーが参加者をお出迎え。3.11からフェイスブックまで、平成っぽい書籍が並ぶ。手前には2000年版のゴジラフィギュアやNintendo DS、ガラケーなどスタッフが持ち寄った平成グッズも顔を揃える。

 

参加者も揃い、3時間のワークショップがはじまる。まずは基本的な編集ワークでウォームアップ。普段、自分がどういう風に発想をしているか意識をしていないもの。アタマの中で無意識に行なっている《編集》を取り出すために、この日は「地と図」「見立て」などの編集ワークを高速で行う。短いワークでもワークシートに書き出すと自分の思考癖が見えてくる。

 

ウォームアップを終えたらいよいよ『情歴』を手に、平成へダイブ。まずは、平成31年間における自分史を振り返ってみる。嬉しかったことや残念だったことなど、31年を限られた時間の中でできるだけ書き出す。阪神大震災、大学受験、WWWの到来…それぞれの平成自分史が徐々にカタチを帯びてくる。

 

さて、平成とはどういう時代だったのか?約10年ごとに3つに区切るとその特徴が見えてくる。

 ◎阪神・淡路大震災やオウム事件があった前半10年

 ◎フェイスブックやアラブの春が起こった中盤10年

 ◎東日本大震災や英国EU離脱のあった後半10年

2つの大震災に挟まれた平成。その間にインターネットが登場し、人と人を繋げ、また分断を起こしているという大きな時代の流れが掴めてくる。ぼんやりと見えていた近過去も、改めて歴象を追ってみると平成という顔が見えてくるようだ。

 

次は自分にとって転換期だった1年をキーイヤーとして選んでみる。橋本は、自身がアメリカ留学した2008年が転換期だったという。”対称性の破れ”をキーワードに3つの歴象をピックアップ。参加者も真摯に耳を傾けながら平成のキーイヤーを思い浮かべていく。

 

ここからは、いよいよ『情歴』を手に自分のキーイヤーを読んでみる。あの一年、国内外では何が起こっていたのか?自身に起こったことと重ねながら、伏せられていた歴史を展いていく。

「あ!友達が載っている!」一人の参加者が思わず声をあげた。『情歴』で学生時代の友達の名前を発見したらしい。あれだけの情報量である。ページを開けば思わぬ出会いが詰まっている。

 

そして、最後のアウトプットに向かって4つのグループに分かれてワーク。それぞれの平成自分史を持ち寄りながら、自分たちの平成にキャッチコピーをつけてみる。自分史だけではない、他者の歴史を重ねてみることがイシス式クロニクル編集ならではある。異なる歴史を重ねてみることで、新たな見方を差し込んでいく。出来上がった4つのキャッチコピーはこんな感じだ。

 

 「混沌は爆発だ! ーマイナスもプラスも」

 「表と裏があぶり出る ーオウムオレオレゲノム」

 「ガレージ(ゲリラ)からビジネス  ー技術と起爆の戦い」

 「ネットワーク上げ下げ ー明るさと暗さ 正負、悪意も伝わる」

 

正負、表裏、明暗、善悪・・・平成における対称性、二項対立に注目したグループが多かったよう。自分史から『情報の歴史21』、そして今日はじめて会った方の平成史、これまで交わることのなかった歴史を掛け合わせることで新しい関係性を発見できることがクロニクル編集ワークの醍醐味である。ぼやけて見えた平成の近過去も参加者11名の歴史が重なったことで朧げにその輪郭が見えてきた。今回は二項対立的な平成の顔が現れてきたが、掛け合わせる歴史によって様相は如何様にも変幻してくる。例えば、メディア史やファッション史だったら?例えば、科学技術史や美術史だったら?ときには『情歴』やあらゆる書籍を片手に自分史と○○史を重ねてみると一様に見えたクロニクルに別の顔が見えてくることだろう。

 


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  • 後藤由加里

    編集的先達:石内都
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。