この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

Hyper Editing Platform[AIDA]では折り返し地点で合宿がある。文字通りの合宿で、寝食を共にし、2日間たっぷり知の汗をかく。今回は実に3年ぶりの合宿だ。(過去2年は遠征を行い、2022年はDOMMUNEを、2021年は角川武蔵野ミュージアムを訪れた)合宿の行き先は彼の地、近畿大学東大阪キャンパス・アカデミックシアターである。
◆1日目:12月10日(土)
キャンパス内にあるアカデミックシアターは2017年にオープン。同シアター内の図書空間ビブリオシアターの設計・企画・選書は編集工学研究所が担当し、全体監修は松岡正剛が行った。1階はNOAH33、2階はDONDENで構成されている。
入館するとまず目に飛び込むモニターには「近大文楽」が流れる。映像はこちら(参丞EEL便#010)からご覧いただきたい。
1日目のメイン会場は1階NOAH33。NOAHとは「New Order of Academic Home」の略で、33のインデックスからなり、約3万冊の一般図書が独自の分類で配架されている。複雑に入り組んだ設計で迷子が続出。図書館スタッフも「場所を覚えるのに1ヶ月はかかりました」と漏らしていた。さながら本のジャングルのようである。
昼過ぎより学林局局長・佐々木千佳の第一声でプログラムスタート。NOAH33「01 注目すべき個性たち」に全国各地から訪れた座衆が集う。
第3講のゲスト講師は安藤礼二さん(文芸評論家・多摩美術大学教授/写真左)と安彦良和さん(漫画家・アニメーター/写真右)のお二人。
安藤礼二さんの『折口信夫』(講談社)はNOAH33「12 世界の民族と文化」にKEY BOOKとして立つ。
安彦良和さんの作品はDONDEN「LEGEND 50」で出会える。この「LEGEND 50」については堀江純一「マンガのスコア」もあわせて読まれたい。
ビブリオシアターの成り立ち、読書の歴史、本の読み方に至るまで、座長 松岡正剛が口火を切り、知の方舟へと座衆を誘う。静かに場の集中が高まっていく。
安藤昭子、吉村堅樹、橋本英人の案内で座衆は1階NOAHを回遊し、既存の十進分類法とは異なる33のインデックスで世界を見る。本棚をよく見ると照明で本たちがショーアップされている。思わず本を手に取りたくなる演出が隅々まで施されている。
1日目のメイン講義。NOAH「28 神々と仏の教え」にて安藤礼二さんによる折口信夫講義を聴く。柳田國男との師弟関係でしか語られてこなかった折口信夫であるが、常民を扱った柳田に対して、折口は王や芸能民を問題にした。「仏と神の間で考え続けた折口の過激さは柳田と切り離すことで見えてくる」柔らかい口調ながらも折口信夫を深く抉っていく安藤さんの名調子に聞き入る一行。
林頭 吉村堅樹の「知の編集工学義疏」では「第三章 情報社会と編集技術」を取り上げる。「我々には元から弱い結びつきがあるため相互作用が前提になっている。そこから経済文化や情報文化技術を考えていった方がいい」同章のラストに書かれているフラジャイルというキーワードを引きながら、第三章を共読する。
NOAH「23 言葉と文学の方舟」「24 アーティスト・ワークス」に場所を移し、安藤昭子の進行で今日1日を振り返る。安藤礼二さんの講義をベースに折口信夫があいだの人であることを踏まえて、マレビト信仰、アミニズム、天皇制にまで議論が及ぶ。
「編集の多様性、一対性、メタファーの力、エディティングキャラクターの設定などを詰めていくことによって、編集は日本の方法に近いとある時から思い始めました。僕も日本独自の発想をした人は時間をかけて読んできた」その中でも日本という方法で有力な候補の一人は折口信夫だったと締めくくる座長 松岡。
仏と神のあいだ、生者と死者のあいだ、またフラジャイルなセクシャリティの淵に立ちながら、人間の原型を見つめ続けた折口信夫の方法に迫って行った合宿1日目。2日目は折口信夫の生誕地にほど近い四天王寺見学からスタートする。
つづく
後藤由加里
編集的先達:石内都
NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。