六十四編集技法【02選択】みんな違っているワケ

2019/11/25(月)09:36
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 「六十四編集技法」という方法一覧がイシス編集学校にある。そこには認識や思考から記憶や表現のしかたまで、私たちが日夜アタマの中で繰り返し使っている技法が並んでいる。それらを一つずつ取り上げて、日々の暮らしがいかに編集に彩られているかを紹介したい。


 

 千光寺を背に記念撮影するカップル、商店街を走り回る子供たち、坂の町を見下ろす猫。みんな違っていた。
 一昨年、棚の飾りと化したカメラを手に写真講座に参加した。参加者全員で尾道の町を歩いて、撮った。与えられたお題は、気になるモノにひたすらシャッターを切ること、なぜ撮ったか理由説明できることの二つだけ。与件は同じなのに、出来上がった写真にはその人だけの尾道が写っていた。
 違うのは当然だが、自明の理こそ六十四編集技法(以下、64技法)でひも解いてみよう。
 町を歩き、興味のあるものを収集する。それらをなんらかの基準でふるいにかけ、シャッターを切る。この行為は、「02選択(sellect):収集された情報から必要な一部を引き出す」にあたる。
 必要な一部を決める基準は一人一人違うので、異なる景色が選択される。基準は個人のアタマの中にあり、無自覚に設定されている場合が多く、あえてお願いして言葉に置き換えない限り知る術はない。しかし、写真は数枚並べると、いつどこに関心が向き、どう動いたのか、注意の軌跡を描き出す。人物中心である、町の雰囲気、風や光を捉えているなど、人それぞれの選択の特徴が浮かび上がる。
 シャッターを切ることを、情報選択の編集稽古だと捉えれば、互いの持ち味に学びあうことも出来る。そうすれば写真の腕も編集力も上達して一挙両得ではないか。密かに淡い妄想を抱いている。

 

 ※六十四編集技法が掲載されている書籍
  『知の編集術』 (講談社現代新書)
  『知の編集工学 』(朝日文庫)
  『インタースコア: 共読する方法の学校』(春秋社)

  • しみずみなこ

    編集的先達:宮尾登美子。さわやかな土佐っぽ、男前なロマンチストの花伝師範。ピラティスでインナーマッスルを鍛えたり、一昼夜歩き続ける大会で40キロを踏破したりする身体派でもある。感門司会もつとめた。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。