六十四編集技法【08凝縮】線路の先の余白

2019/12/03(火)13:29
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  「六十四編集技法」という方法一覧がイシス編集学校にある。そこには認識 や思考から記憶や表現のしかたまで、私たちが日夜アタマの中で繰り返し使っ ている技法が並んでいる。それらを一つずつ取り上げて、日々の暮らしがいか に編集に彩られているかを紹介したい。

 

 

 

 

 桜が咲いて春、暖簾が揺れて風、猫の逢引き、線路は続くよ、また明日。【02選択】で取り上げた写真講座の最後に、お気に入りの5点を選びタイトルをつけて披露した。

 

 タイトルの付け方にも人それぞれの特徴が見える。大雑把に分類すると、凡そ3つに分かれる。一つ目は、写っているものや風景がそのままタイトルになっている「すっぴん系」。二つ目は、桜で<春>、揺れる暖簾で<風>など部分から連想を進めた「薄化粧系」。三つ目は、全体の気配を感じさせつつも、被写体とは全く関係ない言葉が並ぶ「変身系」。 

 

 名づけにも編集が生きている。写真の中の何かやどこかに着目し、意味を考え、ぴったりな言葉を探す。64技法に当てはめると【08凝縮(condensation):意味の濃縮、概念化、命名、論理化】との関係が深い。

 

 凝縮に至るまでの道筋は人により異なる。ストレートに表現するか、じわじわ寄り道しながら連想を広げるか、一足飛びに遠くに対角線を引くか。道中のプロセスを長々と説明は出来ないので、ぎゅっと意味を濃縮する。

 

 タイトルをつけるとは、切り取られた世界を磨き上げる編集である。みたままのタイトルがつまらないわけでなく、連想や創造で変身させることが優れているわけではない。

 

 凝縮することで、他者が作品に想像の翼を広げる余地が生まれる。作者と鑑賞者のあいだを結ぶ余白が作品の持つ世界を一層豊かに描き出す。見る人が余白に遊ぶことのできるタイトルを編集できるようになりたい。

 

 

(design 穂積晴明)

  • しみずみなこ

    編集的先達:宮尾登美子。さわやかな土佐っぽ、男前なロマンチストの花伝師範。ピラティスでインナーマッスルを鍛えたり、一昼夜歩き続ける大会で40キロを踏破したりする身体派でもある。感門司会もつとめた。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。