この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

1850で止まったカウンターが動き始める。
松岡正剛のライフワークであり、壮大なブックナビゲーションである千夜千冊が、新たなスタートを始める。
昨年、急逝した松岡正剛による千夜千冊は、2000年から休むことなく書き続けられてきたが、昨年1850夜にて断絶した。
1000夜までは毎日更新のペースでアップ。読書界の千日回峰と言われた。求龍堂からは福原義春プロデュースによる千夜千冊全集(全7巻+記譜:総額10万円)が発刊され、千部を完売し出版界の事件となった。500夜達成、1000夜達成、1500夜達成記念ではそれぞれゲストを招きながらパーティを催し、コロナ禍の2020年には丸善創業150周年記念連続講演会 最終回「松岡正剛 千夜千冊の秘密」がリモート開催された。角川ソフィア文庫からは千夜千冊エディションとして、「本から本へ」「デザイン知」に始まり、「編集力」「情報生命」「面影日本」「全然アート」「仏教の源流」など、「数学的」に至るまで30冊に至った。
松岡正剛本人は、千夜千冊エディションの31冊目以降も構想をしていたし、千夜千冊展の企画も進めていた。もちろん、千夜千冊も2000夜達成を目指していただろう。最後になった千夜千冊1850夜『中国人のトポス』の末尾にはこのように記されている。
ところで、この千夜千冊は築地のがんセンター中央病院の病室で書いた。6月12日、定期検診を受診した折、主治医の後藤悌先生から「ここのままでは肺炎が危い、すぐに入院しなさい」と言われて、そのまま入院した。幸いに肺炎には至らず、肺癌の進捗も少し抑えられているようだが、これでぼくの今後の日々が決まってしまった。
千夜千冊にしても、他の執筆原稿にしても、思索や表現に挑むにしても、これからしばらくはそこでの日々になる。縮冊篇『中国人のトポス』はその先触れの第1弾となった。
最もフラジャイルな「肺」という器官を冒されて数十年、わが愛すべき肺胞瓢箪は最後の悲鳴をあげながら、ゆっくりと「虚」と「実」をひっくり返しつつある、そのことが今後のぼくの心身の「ゆらぎ」と周辺への「粗相」に何をもたらしていくのかは見当もつかないが、せっかくだからこの不埒な「極み」の感覚を観照してみようとも思う。期待せず、見守っていただきたい。
なお、今後の縮冊篇は「極み」を綴るために選書するものではない。これまで採り上げたいと思っていながらスキップしてきた数多くの千夜候補から、せめて少しでもエントリーさせておきたいので縮冊篇を構えたにすぎない。センセン隊の力を借りることになるだろう。
縮冊篇の宣言とその先の未来が見れなかったことが残念でならないが、その松岡正剛の無念を引き取りながら、新たな千夜千冊を復活させようと買って出たのが、松岡正剛事務所の寺平賢司が率いる千駆千嘨隊である。松岡自身が力を借りることになるだろうと言っていたセンセン隊だ。松岡は常に同時に千夜千冊を書いているのだということを公言していた。千夜千冊は20冊以上並行で執筆が進められて、そのときどきの気分や状況に合わせて推敲を重ねながらアップしていたわけだ。センセン隊が確認したところ、松岡が愛用していたワープロには書き溜められて途中までになっている千夜千冊が100夜以上はあるのだという。それを「千夜千冊 絶筆篇」として公開していくというのだ。賛否両論あるだろうが、千夜千冊のナンバーは敢えて1851夜と加算してカウントされていく。公開は5月12日に決まった。奇しくも、千夜千冊と共に歩み続けてきたイシス編集学校 55[守]の開講日になる。
さらに公開の翌日には、おっかけ千夜千冊ファンクラブ(通称 オツ千)のLIVE配信も決まった。絶筆に終わった千夜千冊は、その後どのように書かれる予定だったのか、1851夜から何を読み取れるのか。編集工学研究所の千夜坊主・吉村堅樹と千冊小僧・穂積晴明が大胆に仮説する。
2025年5月13日 20:00- LIVE配信 アクセスはこちら
2024年8月12日に松岡正剛が逝去してから、9ヶ月目の5月12日 千夜千冊絶筆篇。復活の日、事件の一夜が、一体何なのか。千夜千冊トップページにアクセスし、更新ボタンを連打しながらお待ちいただきたい。
写真:後藤由加里(協力 松岡正剛事務所)
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。