この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

前代未聞の56人の候補者が乱立した東京都知事選が佳境を迎えている。編集工学研究所の本楼では、ZOOM配信とのハイブリッド開催で「輪読座『太平記』を読む」の第三輪が催されていた。読めども読めども佳境しかない『太平記』。今輪のテーマは「建武の新政とその崩壊」である。
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輪読座では、前回の内容を独自に図象化する宿題が恒例だ。前回第二輪のテーマは「鎌倉幕府滅亡」で、楠木正成の籠城戦や、後醍醐天皇と幕府軍との争い、新田義貞の鎌倉攻略から北条一門自害といった物語を輪読していた。座衆の方々が共有してくれた図象を紹介したい。
●手書きのパステルの多彩な色合いの渦に言葉を散りばめたK座衆
K座衆:「潮目が変わる、鎌倉幕府滅亡に一気に進んだことが印象的だった様子を色分けした。底辺構造が変化し、悪党、新興勢力の台頭など、いろんなものが流動化して、不信感が醸成されてから雪崩をうつように進んだと感じた。前回の輪読テキストで亡くなった人の数をかぞえたらものすごい数だった。体制が変わるのには犠牲が伴うことを実感した。今も、国よりも力を持つ企業があるなど、世の中の流れのほうが進んで国の制度が追い付かなくなっていることもあるように思う。」
●北条の体制が崩れゆく様をビルに見立てたT座衆
T座衆:「確固としていた北条側の根幹が揺るぎ、ビルが倒れるように崩れていきそうな様子をかいた。貨幣経済の発展によって色々なところにお金がまわって経済活動が分散することで悪党が力をつけ、央から地方、周縁にも広がって、特に鎌倉からはなれた西のほうの武士集団が不満を抱いたものを後醍醐天皇側が束ねて力をつけていった。楠木正成のゲリラ戦など、少ない人数で戦っていても戦えると知った時に、不満をもっていた人たちが集結したという物語を前回読んだ気がした。」
両座衆のコメントに出てくる「悪党」。この「悪」は今想起される「悪」とは異なる。BADではないのだ。対となる「善」は生きていける状態、衣食住には困らない状態のことであったが、やがて“生存に無関係なもの”がどんどんと増えていった。それは人間の欲望だ。その欲こそが「悪」であり、表現を変えれば経済を振興させてきたものがここでいう「悪」なのである。
バサラと悪党は結局は同じ社会感覚にいた連中の、一身二体のヤヌス的な呼び名なのである。南北朝はこのバサラと悪党によって勃興し、バサラと悪党の退嬰によって、凋落していった。
千夜千冊#1224夜『南北朝の動乱』村井章介編
輪読座は毎月最終日曜日の開催で「『太平記』を読む」は9月29日まで全6回のシリーズだ。第三輪の今回は足利尊氏・直義軍が京都から逃走し北九州に落ちのびて、後醍醐天皇が京都に帰還するまでを読み進めている。7月の第四輪のテーマは「南北朝開始」。足利軍の反撃フェーズだ。輪読座は毎回アーカイブ映像もあるので、リアルタイムで受講できない回があっても映像確認でき、いつからでも受講可能である。門戸はいつでも開かれている。
https://es.isis.ne.jp/course/rindokuza
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6月30日は1年の前半を無事に過ごせたことに感謝するとともに、半年間の穢れや罪・過ちを祓い清める「夏越の大祓」でもある。経済が発展していくことも必要なことだけれど、『太平記』の乱世を輪読しながら、自分の「悪」が行き過ぎていないかにも意識を向けてみたくなった。
https://eel-dev.sakura.ne.jp/just/rindokuza_taiheiki01_20240428/
宮原由紀
編集的先達:持統天皇。クールなビジネスウーマン&ボーイッシュなシンデレラレディ&クールな熱情を秘める戦略デザイナー。13離で典離のあと、イベント裏方&輪読娘へと目まぐるしく転身。研ぎ澄まされた五感を武器に軽やかにコーチング道に邁進中。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。