【募集◆定員30名】「今福龍太を読む」 多読スペシャル第三弾

2023/04/27(木)12:00
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新たな【多読スペシャル】への旅が始まる。
著者との開講セッションを経ての共読&探求、著者自ら受講生の作品を審査講評する修了式……。イシスでも異彩を放つ講座【多読SP】が6月4日、開講する。2021年秋「大澤真幸を読む」、2022年秋「村田沙耶香を読む」に続く第三弾は「今福龍太を読む」だ。


 

 今福龍太は、「汀(みぎわ)」で思考し続けてきた旅人だ。
 汀は、水の攪拌が起き、混じり合い、変容する場所だ。あちらとこちらのあいだにある、流動的な境界領域だ。終わりであり始まりでもある。非一貫であり、非純粋であり、非正当な場所だ。ひと言でいえばクレオールだ。それは今福にとって、時にはメキシコであり、ブラジルであり、琉球であった。書物もサッカーも混じり合った文化だった。汀から21世紀の新たな人間哲学を問い、足の裏で汀の砂を確かめるように、今福は書くように歩き、歩くように綴った。
 今福龍太を文化人類学者という枠組みで簡単に括れないのは、そういう理由だ。

 

▲今福さんのトレードマークは帽子だ。『ONE PIECE』のルフィが麦わら帽子を、『ドラえもん』作者の藤子・F・不二雄がベレー帽をかぶるように、今福さんの帽子も、冒険の象徴に違いない。

 

 松岡正剛と今福龍太の交遊は、10数年前に遡る。[AIDA]では、奄美合宿を共にした。

《炎暑がようやく静まった、十二月初旬の透明な光あふれる奄美大島の森や汀を寡黙に遊歩する松岡正剛。その姿と佇まいは、ひときわエレガントであった》

 奄美での松岡との機縁を、今福はこう振り返り、一篇の美しい映像作品に仕上げた(『歪んだ真珠』)。映像には、今福が『擬』から切り取った言葉が浮遊する。

 

▲特別映像「松岡正剛 歪んだ真珠」(produced by今福龍太)より抜粋

 

 松岡正剛は、千夜千冊1085夜で今福の『クレオール主義』を取り上げた。

《……ぼくにはそうした理論家たち(サイードやベネディクト・アンダーソンなど)の言説よりも今福がクレオールな言葉づかいを必死に守ろうとして、カリブでブラジルっぽくてメキシカンな文脈をレポートしようとしていることのほうに、感動した》

 

 「混じり気のある編集クレオール」こそ必要と考える松岡にとって、クレオールを体現する今福の著作が出るたびに熟読・絶賛するのは、当然といえる。

 

 そして今回、満を持して、【多読SP】に今福龍太が登場する。
 テーマは「旅」だ。受講生は、『リングア・フランカへの旅』という本の船にのり、【多読SP】特製の「群島読書地図」を手に、「今福龍太の6つの島宇宙」を、島から島へ、探検することになる。受講生は、《私たちの思考を海という流体を媒介にして空間的に拓いてゆく》(『群島 世界論』)のだ。

 本は旅であり、旅は本であった

 

 島のいくつかを紹介しよう。

●クレオールの島●

    
 今福龍太の旅の原点ともいえる島。『クレオール主義』『ハーフ・ブリード』『ボーダー・クロニクルズ』が待ち受ける。今福のいうクレオールとは、運動や関係性の創出のことだ。

《鉄道線路と道路が交差するポイントは、いつも旅の人々によって占領され、種々雑多な出会いとコミュニケーションが交わされるエネルギッシュな「交通」の場だった》(『クレオール主義』)

 交差した場所から、混合、混血、混種の有機的な世界が立ち上がる。

 ◆ユートピアの島◆

    

「先進性」はわたしたちに何をもたらしたのだろう。近未来都市に生きる「わたし」を語り手とする物語と神話的な島に生きる少年「ノア」を主人公とする物語とが交差する寓話的小説集『ないものがある世界』や、ソロー、宮沢賢治を通して、ユートピアを構想する。

《万物の連鎖こそ、賢治の信じる救いのヴィジョンなのです。個人の生命の喪失は、それじたいを人間主義的な視点から見れば、深く痛ましい出来事です。ですが、ともすれば人間中心主義的な価値観に流れてゆく危険性を持つヒューマニズムを超えたところに、賢治の考える真の智慧と愛の大地は存在していました》(『宮沢賢治 デクノボーの叡知』

 ▼ホモ・ルーデンスの島▲

   

「遊び」と「身体」。人間は、《遊戯によって、動物は単なる「本能的」な行動原理に縛られた存在から脱してある種の文化的・社会的規範への接点を獲得する》(『サッカー批評原論 ブラジルのホモ・ルーデンス』)のだ。そのひとつがサッカーである。

《サッカーへの愛とは、あくまで突発的に起こる一瞬のプレーへの愛でなければならぬ》(『フットボールの新世紀』

 

 旅の終わりに受講生は、それを「作品」へとつくりあげる。旅日記、小説、映像、画像……ジャンルもメディアも自由だ。

 いったいどんな旅が刻まれるのか。どこを旅するのか。誰に出会うのか。

 船の定員は30名。乗船切符は早い者勝ちである。

 

DESIGN the eye-catching image 穂積晴明

 

Profile


◎今福龍太 Ryuta Imafuku
1955年生まれ。文化人類学者・批評家。1980年代初頭からメキシコをはじめラテンアメリカ各地でフィールドワークに従事。クレオール文化研究の第一人者。国内外の大学で教鞭をとりつつ、2002年より奄美・沖縄・台湾の群島を結ぶ遊動型の野外学舎〈奄美自由大学〉を主宰する。近著に『原写真論』『ぼくの昆虫学の先生たちへ』。

 

Info


<多読ジム>スペシャルコース第3回「今福龍太を読む」

【受講期間】2023年6月4日(日)~2023年7月9日(日)

      *6月4日(日)「オープニングセッション」
             講義=今福龍太/読衆とのセッション
      *8月5日(土)「修了式」
             スペシャル対談=今福龍太×松岡正剛
             今福龍太の審査・講評あり

【受講資格】[破]応用コース修了者

【定員】  30名 ※定員になり次第、締め切りとなります。

【受講料】 77,000円(税込)
         ※テキスト『リングア・フランカへの旅』
      「オープニングセッション」「修了式」の参加費を含む

【お申込み】https://shop.eel.co.jp/products/detail/532

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。