【多読SP・レポート】今福龍太丸、29人を乗せ出航

2023/06/06(火)19:00
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 スマホ片手に舗装道路を行く旅。
 大まかな地図はあるものの、どこにたどり着くかわからない旅。
 あなたなら、どちらの旅をお望みか。

 

 この日6月4日、[多読SP・今福龍太を読む]のオープニングセッションに参集した29名の読衆たちは、後者の「答えのない旅」を選んだ冒険者だった。

 「リアルで読衆と交わしたい」という今福龍太さん本人のたっての希望で、豪徳寺・本楼で開かれたセッション冒頭で、今福さんが強調したのは「わからなさ」についてだった。

 うん、僕はわかるっていうことよりわからないことの方がずっと面白いと思っているんですね。これまで本読んだり、様々な人――僕が師匠と呼んでいる人たちと交わしあったりしてきたのは、「わからない」ということを楽しんでいるのが大きい。
 もちろん、わかりたいと思うのだけれど、ひとつわかると、わからない世界が10倍にも20倍にも100倍にも広がっていく。

 

 今福さんにとっては「書くこと」も、どこにたどり着くかわからない旅だ。初めからゴールを決めたり、構成を固めたりしない。書くことで一層、謎を深めていく。

 書けば書くほど、謎に直面していくんです。それが楽しいんだよね。

 

 当然、[多読SP・今福龍太を読む]も一筋縄ではいかない。
 あらかじめ6つの島が用意されており、読衆はそこを冒険することになるのだが、それは通常の「本を読む」という行為ではない。何せ島には、今福さんいわく「密林もあれば、洞窟も砂漠もある」。「今福龍太の6つの島」を読み進める行為は、探検であり、身体性を伴った創造的行為だ。

▲[多読SP・今福龍太を読む]のために用意された、オリジナルの地図。読衆はこれを手に、探検に出る。

 

 今福さんが冒険のアイテムとして読衆に提示したのは、自身の「まねぶ」という体験談だった。

 もう20年ぐらい前になるかな。僕が奄美大島に通い始めた時に、里英吉さんという三線(さんしん)の唄者(うたしゃ)に惚れ込んでしまって、勝手に弟子入りしてしまった。彼は誰かに教えるなんてことをそれまで一度もしたことがない。技術の体系化もされていない。僕は身体感覚すべてをはたらかせて、見よう見まねで覚えるしかないわけです。
 これまでの学校教育の「学び」とは根本的に異なる「模倣=ミメーシス」がそこにあった。僕はそれを奄美で発見したんです。

 

 一般的な学問は、フレームを設定し、その中だけで完結しようとする。はみ出そうものなら、自己規制だ。今福さんは、こうした専門性の中に自分を閉じ込めるのはやめようと思ったという。だから文章を綴るだけでなく、映像も創れば、吟遊詩人にもなり、三線で唄をうたう。
 今福さん自身が「ハーフ・ブリード」となって、混合し、交差し、混濁し、境界を侵犯する。それは新たな可能性としての自由であり、解放であり、寛容性であり、悦楽であった。
 実際、読衆は、このオープニングセッションで、今福さんの唄を、詩を、言葉を、映像を、汀に立って浴び続けた。それは悦楽の3時間であった。

 

 29人の読衆は、今福さんが唄者の三線を真似たように、今福龍太というハーフ・ブリード=クレオール的振る舞いを、8月5日の「読了式」まで模倣=冒険し続けることになる。

 

 

Info


◉多読ジム スペシャルコース「今福龍太を読む」読了式

 

∈日時:2023年8月5日(土)14:00~17:00
(進行具合によりお時間延長の可能性がございます)

 

∈出演:今福龍太(文化人類学者・多読ジムスペシャル著者ゲスト)
    松岡正剛(イシス編集学校校長)

 

∈予定プログラム:
  1)読了式
  2)今福龍太さんによる「特別賞」発表・講評
  3)今福龍太×松岡正剛校長【スペシャル・セッション】


∈オンライン参加:3000円(受講生以外の方)
 *お申込み後、zoomのアクセスキーをお送りします。

 

∈URL:https://shop.eel.co.jp/products/detail/563

 

∈お問合せ先:イシス編集学校 学林局 front_es@eel.co.jp

 

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。