この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

終演後の拍手に応える田中泯さんの手には、マイクがあった。
「初日があけました。もう、うれしくって…」
顔がほころんでいる。踊りの「外は、良寛。」を世に送り出した喜びを打ち明ける。ダンサーはあまりしゃべらないものだが、泯さんは終演後に語る。この日の口調は、毬がはずんでそれるみたいに、うれしさが飛び出してしまったみたいだ。
『外は、良寛。』は、松岡校長の著作のなかでもファンの多い一冊。1993年に芸術新聞社から刊行され、現在は講談社文芸文庫に収められている。1995年の『フラジャイル』に先立って、松岡校長が、フラジリティの意味を問うた書といえる。良寛の書、歌、生活ぶり、人とのつきあい方、そのよって立つ景色といった諸相から「いま」が忘れてしまっている、でもかつて確かにあった意味を掘り起こして見せてくれる。
この公演では、田中泯さんが語り部ならぬ「踊り部」となり、良寛の身体になって歩み、遊び、語り、書き、祈る。松岡校長のつむいだ言葉、さらには言葉以前の音がひびき、杉本博司さんの海の景色が表情を変え、本條秀太郎さんの音楽が遠くからおとずれ、山口源兵衛さんの衣は畏れをつれてくる。言葉になるやならずの音の破裂とともに身体がうごく。雪景色にダイブし、歌を追いかけ、泯さんが良寛になってゆく。やがて踊りはしまいにいたり、「外は、良寛。良寛だらけです。」と言い放つ。
カーテンコールで舞台上によばれた校長は「最後、ナマ声でよかったね」と一言。録音の自分の声では気に入らなくって、と応じる泯さん。作品作りの裏側をチラリと見せる。泯さんからの最後のメッセージは、「みんなもっとナマの舞台を見て! いっぱい感じて、想像を広げて!」。そうなのだ。私たちには自分を突き飛ばし、遠くへ連れて行ってくれるものが不足している。どんなものなのか、予想しづらいものをこそ見てみたい。
「外は、良寛。」はあと、3回。本日12月17日(土)15:00、19:00、18日(日)15:00。
良寛に会って、良寛になる体験をぜひ。
公演の詳細はこちら。
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。