<速報>図解発表レポート【輪読座「幸田露伴を読む」第二輪】

2023/05/28(日)18:50
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 5月中旬に開催されたG7広島サミット。現代日本のリーダーシップが問われたグローバルイベントであったが、唯一の被爆国として平和な世界へと導くための説得力あるメッセージを世界へ伝えることができていない。これは方法の不足によるものだ。私たちが肖るべき方法の型は現代にあるものへ注目しがちだが、明治時代以前の日本にも隠されていることに気づくべきである。

 明治から昭和初期にかけて、大日本帝国形成期からその終焉まで「方法日本」を支えた編集的先達として幸田露伴(1867~1947)が挙げられる。彼が考究した「編集としての日本」を読む機会が編集学校にある。4月にスタートした輪読座だ。前回の第一輪の最後で示された宿題に対する発表が今日5月28日の第二輪冒頭で行われた。受講者である座衆2名と、講師役である輪読師・高橋秀元の交し合いを今回レポートする。

 

 座衆Mの発表が始まった。露伴が文名を得た『風流仏』で描かれた仏師が、森羅万象の真実のすがたを知る仏へと至る段階「十如是」の章立ての順番に注目した。十如是と十界が対応していることを確認し、順番を変える概念工事が行われたことに気づく。ここで高橋は、露伴が「風流仏」を分節化し、「風流」へと意図の視点を移動していったことを補足する。宗教的な観点から仏になるためだけの物語に留まらず、日本での創造性の発生へと概念を拡張していったのだ。順番変更することで、隠されていたものが見えてくることがあると高橋は強調した。

 

 座衆Hからの発表もあり、若き露伴が北海道の与市郡に行って得た恋愛的な三角関係に対する新しい見方を示した。『風流仏』は2人の男性の片方を選択する物語ではなく、どちらの関係も将来に活かすという方法を強調した。決して欲張りなのではない。別作品『一刹那』と『風流仏』の執筆を行き来しつつ、維新前までの日本の良さを物語に散りばめる編集的意図があったのではないかと推測する。

 座衆Hの説明を受けた高橋は日本の真価を世界に波及させる願望が露伴にあったことを指摘する。具体例として露伴の妹2人について語り始める。彼女たちは西洋音楽を学んだが、幼い頃から稽古した長唄や箏曲の達人という一面があり、ヨーロッパ人たちを驚愕させたエピソードを持つ。日本人の感覚が世界に影響を与える可能性があるのだ。現代日本人も自分たちの文化に世界に誇れる方法がある、と自覚すべきである。

 

 高橋から第二輪で学ぶ『風流魔』との接続に向けた補足説明もあった。明治時代以降の近代では集団や国家が圧倒的に優越し、個人の力が弱い時代が続いている。用意されたものを選ぶことはできるが、自分自身で何かできることがなく、創造性のない時代だ。個人個人の編集力の底上げが露伴の課題だったのだ。『風流仏』を執筆途中の露伴が身を寄せた組織として「根岸党」があった。編集学校の遠い祖先と呼べるような存在、と高橋は指摘する。学校に行ったことのない年配の絵描きや評論家など、あらゆるジャンルの党員による編集遊びが行われた。若き露伴は党員たち付き合いながら『風流仏』における「十如是」の順序を見直し、概念工事を実践していたことが明かされる。露伴作品は21世紀を生きる個人としての私たちの行動を編集する指針となるのだ。

 

 次回の第三輪は6月25日(日)。輪読座ではアーカイブによる視聴がいつでも可能だ。門戸は常時、誰にでも開かれている。コチラをクリック。

  • 畑本ヒロノブ

    編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。