<速報>講座始動レポート【輪読座「富士谷御杖の言霊を読む」第一輪】

2023/10/29(日)16:16
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 秋の読書週間が始まり、都内・神保町付近ではこの週末にブックフェスタが開催されている。商店街通りは多数の読書好きが集まる大盛況。出版社ブースにおける3~7割引の書物のラインナップに対して、ついつい財布の紐が緩み、大人買いをした者もいたに違いない。同じ時期、10月29日に豪徳寺の編集工学研究所で、輪読座富士谷御杖の言霊を読む」第一輪が開催された。

 病理医もお勧めする歴史情報が詰まった『情報の歴史21』で富士谷御杖を検索すると1807年に「コトダマ理論研究」として登場する。千夜千冊1008夜『仁斎・徂徠・宣長』では、叔父が京儒の皆川淇園、父が国学者の富士谷成章である御杖が「言霊」にめざめて歌学にとりくんで、『歌道非唯抄』『うたふくろ』『古事記燈』『万葉集燈』『百人一首燈』『土佐日記燈』などを著したことが示されていた。本居宣長や賀茂真淵らの学問を摂取しながらも批判し、まったく新しい「言霊論」という見方を展開した知る人ぞ知る異才の国学者だったのだ。歴史の裏側に潜んでいた人物を解き明かす講座に対して40名を超える申し込みがあった。

 

 

 

 図象を駆使しながら講師役を務める輪読師・高橋秀元はいつもと異なり、白く艶のあるジャケットを着て登場した。石油を原材料として製造された衣服が大多数を占める世界で、高橋が最もエコな会社と評するSpiber株式会社の人工の蜘蛛の糸が使用されている。ボタンはラピスラズリ製で高級感も溢れている。

 その真価は表側だけではなかった。高橋の右隣にいる斎藤耕一さんが柔らかに裏地を見せる。映っているのは鵲(かささぎ)。古代に渤海から日本海を通じて出雲の国、そして大和朝廷へと飛び渡るとともに、「アギ」と呼ばれる文節語をもたらしたスズメ目カラス科に分類される鳥であった。アーキタイプに思いをはせる言霊の服で輪読座がスタートしたのだ。

 

 

 

 輪読師による図象解説では、皆川淇園、富士谷成章、富士谷御杖の3名が中心に置かれた。皆川淇園は独自の言語論を通じて「名」が「物」を生じるとする開物論を立ち上げ、ヒトの神経作用を通じて言語が生成されると唱える。名づけによって将来出現するモノがあることを強調していた。スパイダー(蜘蛛)とファイバー(繊維)に肖ったSpiberという会社名にも人工の蜘蛛の糸を使ったモノを生み出す言霊の力があったのだ。

 兄である皆川淇園の開物論をベースにして国語学を興し、日本語の構造性を初めて明らかにした富士谷成章。叔父と父の意思を受け継いだ富士谷御杖は、あらゆる言葉や文法に言霊が宿るものとみなした。そして、「輸送」や「移し替え」を語源とするメタファーの一種である〈比喩〉や、語の音節の順序を逆にしてつくられる〈倒語〉を積極的に使うことで、時間の制約を超えた言霊の力が発揮し続けると信じて『真言弁』を表した。

 その後、『真言弁 上巻』の音読が始まり、参加者たちの読み上げの間に高橋による解説が続き、難解な文章の意図がほぐれていった。

 

 次回の第二輪は11月26日(日)。輪読座ではアーカイブによる視聴がいつでも可能だ。門戸は常時、誰にでも開かれている。富士谷御杖の怪物性に関心を持たれた方はコチラをクリックいただきたい。

  • 畑本ヒロノブ

    編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。