この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

2024年春の感門之盟Day2。今日もぐんぐんと気温が上がり初夏を思わせる陽気となった。「涼しげ過ぎたかしら。」と微笑む原田淳子[破]学匠の更紗の爽やかな着物姿の装いが一層映えている。今期の稽古と熱気を受けとめ、原田学匠は、51破の突破式の冒頭、学衆と指導陣に向けてメッセージを贈った。
■学衆も指導陣も気持ち新たに
「今までの[破]の稽古と比べると、今期の学衆さんへのお稽古は案外厳しかったかもしれません。」と、原田学匠は51期の運営を振り返る。今期は校長のディレクションを受けてさらに新しい[破]の稽古の方法を模索していたのだ。
51[破]の指南では、師範代にこれまでの殻を次々に脱ぎ捨てることを求めた。例えば、文体編集術で今まで手渡していた回答例やお助けワークシートをやめる。学衆への指南では別様の可能性を引き出し、学衆の回答の変化が感じられるような方法的な指南を求める。
殻を脱ぎ捨てたのは師範代だけではない。学衆全員が集う別院では、[破]のエポックとなるアリスとテレス賞を運営する評匠連自ら「いじりみよ研究所」を立ち上げ、ここまでは目指してほしいという中身を見せて学衆への奮起を促す。
原田学匠は、[破]の指導陣が目指す姿と、そこに喰らいつく学衆達を、全期を通じてあたたかく見守り、鼓舞し続けていったのである。
■SF小説が仮説する未来へと向かう編集
「SF小説はすごいと思うのですよね。」と原田学匠の話題が急展開する。
最近の千夜千冊1843夜で松岡校長はテッド・チャンの『息吹』を取りあげ「ジーン・ウルフ、ジョン・クロウリー、グレッグ・イーガンに継ぐSF作家がついにあらわれた。」と絶賛している。
「SF作家達はエンターテイメントではなくて、人類の未来をすごく考えていて、歴史を読み、今を捉え、解釈して、そこからあり得る未来がどうなるかを仮説している。そして、その仮説した未来の物語から私達に問いかけているのです。」これは、[破]で学んだ稽古の道筋そのものでもある。
ヒストリーからストーリーへ、そしてエディトリアリティへ。そこで働く潮流は想像力だ。指導陣が不足を伝え、学衆が手渡された不足を想像してその先へ向かう。
今期、突破を果たした学衆は40名。豊かな想像力に編集の方法が重なることで、自らの潮目を見出していった強者ばかりである。
「今回の稽古を乗り越えたみなさんはどこへ進んでも怖いものはありません。」原田淳子[破]学匠は、未来を仮説してそれに向かう編集を稽古で受けとめ、たくましく成長した学衆達の次のステージに期待する。
(写真:福井千裕)
細田陽子
編集的先達:上橋菜穂子。綿密なプランニングで[守]師範代として学衆を全員卒門に導いた元地方公務員。[離]学衆、[破]師範代、多読ジム読衆と歩み続け、今は念願の物語講座と絵本の自主製作に遊ぶ。ならぬ鐘のその先へ編集道の旅はまだまだ続く。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。