松岡校長メッセージ「編集のWBCを律走せよ」【81感門】

2023/03/18(土)19:28
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81感門_校長メッセージ

侍ジャパンが野球世界一決定戦であるWBCの準決勝に向けて30℃近いマイアミで調整中のころ、東京・豪徳寺の最高気温は10℃を切っていた。

本楼の外には冷たい雨が降り続けるなか、3年ぶりに学衆も迎えた2023年春の感門之盟では、観測史上もっとも早い桜の開花に呼応するかのように明るく賑やかな場が広がっていた。校長・松岡正剛は、本楼とZoomの先にいる参加者を見つめながらメッセージを語り始めた。

 

■律走がもたらされるとき

私たちの体の中には、たくさんのリズム振動子がある。例えば心臓は多くの心筋細胞から成り立っていて、それぞれのリズムを刻んでいる。最初バラバラなリズムは、心臓というひとつの組織に向かうことで、リズムが合ってくる。それはまさに、ひとつの教室に偶然に集まった学衆と師範代が、共に稽古を行い、渡される指南を共読し、随伴現象を起こしていく、その動き出しとも重なる。教室の中での事件、外でのイベントを、一緒にやり遂げること、合わせていくことで律走がもたらされる。

■リアルバーチャルとエディトリアリティ

幼子は、おとうさん・おかあさん・お花…と目に入ってくる対象を、自分と別のものとして切り分けることができない。物ごころがついていくなかで、自分自身と対象とを、要素や機能や属性などから、社会的に分けることができるようになる。リアルバーチャルをアクチュアリティにかえていく。エディトリアリティとは、本来の生命や生物や幼児が持っているものが、社会化されることで分断され、その分断を受け入れ、さらに分断されたものを取り戻す、その過程なのである。

 

■校長・松岡は来年80歳
年を取ることは想像していたものと違っていた。編集のバッターボックスに立ち、自分の手が出るところにも出ないところにも、編集的に訓練を行ってきた。しかし、侍ジャパン最年長のダルビッシュ有の球筋が甘くなるように、いろいろやっていても隙間が出てくる。仕組みとして仕上がっていたものが、年齢とともに別のところに離れていく、肉体が仕組みからズレ始める、そんな感覚だ。さらに、自身の動きが遅くなり始めたとしても、他者の動きは細かくゆっくり見えてくる。隙間が見えることが大事なのだ。

 

めんどくさい校長。それが新たなお役目なのかもしれないと笑いながら、各々がリズム振動子となってエディトリアリティを律走して欲しいと結んだ。おめでとうの言葉と共に伝えられたメッセージは、新しい時代の編集ジャパンを担うイシス編集学校の指導陣・学衆たちの編集むずむず状態をさらに加速させていく。

 

  • 米田奈穂

    編集的先達:穂村弘。滋賀県長浜出身で、伝統芸能を愛する大学図書館司書。教室名の「あやつり近江」は文楽と郷土からとられた。ワークショップの構成力に持ち前の論理構築力を発揮する。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。