【速報 校長メッセージ】Q→Aの既知の世界からQ→Eへと羽ばたく蝶【79感門】

2022/09/10(土)18:30 img
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■感門之盟の由来とは?

イシス館の階段をゆっくり下りてくる松岡校長を、井寸房が迎える。青白橡色の羽織を纏った校長は、今日開かれる感門之盟の由来について語りだした。4世紀半ばの魏晋南北朝の中国は、六朝とも呼ばれるダイバーシティに富んだ時代で、変わり続ける王朝に庶民も貴族もうんざりしていた。そうしたなか、有能な文人たちが、爛れた中央の治世へ勝手に好きなことを言おうと集まった。これが清談と言われる談話で、のちに竹林の七賢と言われる人々も登場した。その中心にいた書聖の王羲之は、国の仕事をすべて断り、会稽の蘭亭というトポスで流觴曲水の宴を催す。42人の同志が集まって開いたこの蘭亭の会盟に肖ったのが、イシスの感門之盟だ。王羲之には子どもや孫が数多くいた。校長にとって、感門之盟に集う人たちが我が子のような存在だという。

 

■王羲之の感門之盟を擬いて

王羲之が考えた蘭亭の会は、それはすばらしいものだった。27篇の詩をつくり、書体も詩文のスタイルも変え、それぞれに題がつけられた。イシス編集学校でも、いくつもの教室があって、お題があり、そこにタイトルをつけている。そして感門表でお互いを称え合うなかに校長も加わり、感謝や労いの気持ちを直筆の色紙に込め、先達文庫に託しているのだという。そうやって生まれたのが、この学校なのだ。

 

■イシス編集学校でのお題とは?

79感門のタイトルをよく見ると、ダイバーシティの綴りが違っている。ダイバーシティのdiは複合的という意味で、verseは世界を表わす。このdiversityに「お題」を掛けているのが、今回のタイトルになっている。イシスでデザインを担当する穂積晴明が編み出した別様のダイバーシティを、校長は丁寧に紹介した。

 

お題は、問題、課題、議題、例題などいろいろあるが、例えば幾何学やリベラルアーツではお題を出して応じる。そのためにプログラムやカリキュラムが練られている。

お題はtitle、issue、subjectなどと言い換えられるが、アカデミーでは、お題とその答えがQ&Aのように一対一対応になっている。しかし校長は西洋と東洋の知的な活動を見ていて、必ずしもそれだけが大事なのではないと考えた。QとAの間にはコミュニケーションが起こっているはずで、逸れていくものもある。もっと面白いものも生まれている。いわばAがQを食べるということもあると、ずっと感じていたのだという。問感応答返のプロセスではたくさんのエディティング(E)が起こっているのだ。ここからQ&Eが誕生した。Q→Eとすれば、EがたくさんのQをまたつくり得る。そうやって編集学校のお題をつくったのだという。

 

■ダイバーシティの本来とは?

ダイバーシティというのは、最近では、差別せずに変化や差異を活かそうという意味で使われている。だが本来、多様性とは、あることを知覚したときに頭の中に浮かんだり、身体で感じたりする束ね難い広がりを言うのだと、校長は語る。例えば蝶が一匹飛んでいると、その飛び方に対してハッと思い、私たちは頭の中にあるものに的確には反応できない。そういうものがずっと残っていく。これが編集的ダイバーシティ、エディティング・キャパシティというものだという。

今日と明日のイシスのダイバーシティを巡って、大いに言祝いでほしいと、校長は「我が子」たちに向かってほほ笑んだ。今日の感門の盟からも、いくつもの新しいQ&Eが生まれ、蝶のように羽ばたいていくのだろう。

 

  • 丸洋子

    編集的先達:ゲオルク・ジンメル。鳥たちの水浴びの音で目覚める。午後にはお庭で英国紅茶と手焼きのクッキー。その品の良さから、誰もが丸さんの子どもになりたいという憧れの存在。主婦のかたわら、翻訳も手がける。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。