この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「即応指南」スペシャル、オンライン稽古が行われた。巷はバレンタインの夜だが、先日行われたエディットツアーを丸ごとリバースしようと、先峰吉井優子花伝師範が乗り出した。花伝所を放伝したあとも新師範代は次期51[守]へ向けて研鑽をつづけている。研鑽ということばは、深く究めるという同じ意味の字が二つ組み合わさって出来ている。重ねる・続ける・深める・積む。
師範代登板になることへの漫然とした不安はすでに吹っ切れたものの、それぞれのもつ課題は漠然としている。つい正解を導きだそうとしてしまうもの、表面的になぞってしまうもの。回答の奥にある意図を取り出すことは、なかなか難しい。そう感じるのも無理はない。なぜなら教室はナマであり学衆と回答という相手があってはじめてアフォーダンスが生まれ、問感応答返のやりとりがたつ。前後の対話や一つではない回答の順序や飛躍ぶりにこそらしさが現れる。読み手の得意手や不得手が自己のエディットモデルとして実感となるのはここからだ。
ゾウ談のあと、さっそくいくつかの[守]のお題に取り組んでいく。
おのおのが学衆となってチャットに回答を挙げ、その回答の中から、気になったものを一つ選び「WHY」と「HOW」をインタビューによって掴んでみようという試みだ。師範代の思考プロセスを話者、読者、観察者、リスナー、あらゆる立場を参加者が擬く。
お題:コンビニにないもの。
選ばれた回答:雨
編集学校のお題はユニークで、ないものを挙げる問いがある。
見えにくい思考のプロセスをなぞるために稽古では、回答が導かれた筋道を明らかにしてみようと言語化を試みた。
インタビュアーもインタビューイも新師範代がつとめる。
本間 「こんばんは。久しぶりです。回答で“雨”ってことですけど、商品の外にあるものですね。」
奥富 「ぱっとみたときに、野良猫とかありえないものがたくさん飛び込んできまして。」
本間 「あった方がいいんですかね、雨。」
参加者「・・・」
奥富 「雨は要らないんだけど、農家さんにとっては、雨キットとかジョウロとか、いいですよね。要らないっていうよりは、あってもいいかも。」
本間 「ないもの、というとマイナスのイメージだけどね、傘立てとか、お店の内から外へも視界を広げるの、いいですね。」
奥富 「コンビニが『大きな傘』みたいなもの、とも言えますよね。コンビニに入れば、雨は遮断されるしね。」
本間 「内と外を隔てるものとか、道行の途中とか。」
新垣 「役割としては、ある。まるっきりないものを探すのは大変、どの《地》からみるのかですね。」
この感、交わし合うこと3分余り。インタビューを聞き入っている参加者はそれぞれ指南をその場で書ききる。通常一時間かかる指南が即応だけにたった3分少々で書き上げる。まくらことばも、時節の挨拶も省略だ。
「雨はコンビニには要らないけど、雨グッズで喜ぶ人がいると自分以外の人を思い浮かべて選んだところに奥富さんのあたたかさが表れています。コンビニを大きな傘と言い換えたところで、一気に想像が膨らみました。」新垣師範代
「『コンビニ』の『雨宿り』という【機能】にも注意のカーソルがあたり、プロフィールとなりました。」水野師範代
「最近雨や雪が多いので、雨、気になります。雨、たしかにコンビニにないですね。雨はないほうがいいとも思いますが、雨が降らないとき、農家さんにとってはコンビニで調達できたらいいですね。《地》をずらしましたね。」山本師範代
「奥富さんのアタマの中にふるいがかかってないものだけど、あったらいいなという可能性を広げてくださいました。雨グッズ、あったら助かる人がいるかもですね。自動ドアが内と外の世界をつないでいるのかもしれませんね。」大塚師範代
賞味30分のスピードワーク、書いて語る。語りをさらに言い換える。新師範代は回答のどこに着目して、どんな言葉を選ぶのか瞬時に反応してみせた。言葉を通して見方が広がる。フィードバック・ループによって、教える側が学ぶ側にもなる。主客の反転とはこのプロセスのことだ。雨がフックとなって、知っているはずのコンビニが変化する。
「即」の妙味。編集稽古にはわかるとカワルが同時多発し、見方はつねに破れていく。明快なインストラクションによって、視界はひらけていく。指南は何度でもおいしい。
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
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43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
今まで誰も聴いたことがない、斬新な講義が行われた。 43花入伝式で行われた、穂積晴明方源による特別講義「イメージと編集工学」は、デザインを入り口に編集工学を語るという方法はもちろん、具体例で掴み、縦横無尽に展開し、編 […]
(やばい)と変な汗をかいたに違いない、くれない道場の発表者N.K。最前列の席から、zoomから、見守ることしかできない道場生は自分事のように緊張した。5月10日に行われた、イシス編集学校・43期花伝所の入伝式「物学条々 […]
発掘!「アフォーダンス」――当期師範の過去記事レビュー#02
2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テ […]
花伝所では期を全うした指導陣に毎期、本(花伝選書)が贈られる。41[花]はISIS co-missionのアドバイザリーボードメンバーでもある、大澤真幸氏の『資本主義の〈その先〉へ』が選ばれた。【一冊一印】では、選書のど […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。