【このエディションフェアがすごい!32】柳正堂書店 オギノバリオ店、甲府昭和イトーヨーカドー店(山梨県)

2021/08/10(火)14:06
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 「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第32弾は山梨県の柳正堂書店(オギノバリオ店、甲府昭和イトーヨーカドー店)。フォトレポートを届けてくれるのは敷島書房に続きイシス編集学校師範代の内田文子さんです。フェアは7月末で終了しましたが、売り場は8月中旬まで展開中です。

 

◇◇◇

 

柳正堂書店は1854年(嘉永7年)創業の、山梨県内でもっとも歴史のある書店である。柳正堂書店創業の地、甲府市柳町は甲州街道の柳町宿として栄えた地域で今もなお多くの店が軒を連ねているが、柳正堂書店は甲府の人々の暮らしが郊外に広がる兆しをいち早く捉え、地元スーパーの中に拠点を設け、それぞれの街に根ざす「街の本屋さん」となった。

 

オギノバリオ店がある甲府市朝気は、縄文~平安時代の遺物・遺構が多数出土する、古くから人が暮らしてきた地域である。甲府を代表する地場産業である、宝石貴金属の加工業者が多く暮らしている。

 

ショッピングモールのキーテナントであるオギノは、山梨を代表する地場スーパーマーケット

 

書籍のほか、文具コーナーも充実。もともと書物と小間物販売からスタートした柳正堂書店のミームを内包している

 

エディションフェアは、明るい書籍コーナーとシックな文具コーナーの「あいだ」で展開されていた。

フェアの展開場所は「この黒い柱が松岡さんのお顔やPOPに映えるよね、と満場一致で」切金さんのセンスが光る。

 

仕掛け人は、切金章之さんと文芸担当の横瀬若菜さんのおふたり。

左:切金さん、右:横瀬さん

 

さまざまな業種でのご経験を積んで柳正堂書店に入社した切金さんは、「松岡正剛さんのお名前はもちろん知っていたが、あまり縁がなかった」と告白。

 

文芸ご担当の横瀬さんは、新卒で柳正堂書店に入社してからずっと書籍ご担当される、柳正堂書店のエース。「父が松岡正剛さんのファンで、松丸本舗にも行きました!」と目を輝かせてお話くださった。今回のフェア開催はお父様も喜んでくださり、初日にご来店くださったそうだ。

 

今回のフェアについては、店舗のふだんの客層からは遠いように感じたものの、社長の「チャレンジだからやってみよう」という声で今回のフェアに参加することになったとのこと。入り口の一等地にフェアをかまえたことで、通りがかりに本を手に取るお客様がちらほら見えるという。

店舗の入口でエスカレーター前と一等地にかまえるフェア。限られたスペースだからこそ「なんだろう」と興味をそそる

 

つづいてお邪魔したのは、柳正堂書店イトーヨーカドー甲府昭和店。昭和町は甲府市の隣で甲府盆地のほぼ真ん中に位置する。人口2万人ほどの小さな町だが、2000年代に入ってから大型ショッピングモールが2つ誕生し、甲府盆地全域から八ヶ岳、諏訪周辺までの住民に欠かせないお買い物エリアとなっている。

 

ドトールコーヒーショップを併設。どちらも柳正堂書店さんの経営で、コーヒーと読書をゆったり楽しめる

 

通路に面した棚一面でエディションフェアを展開。この前は、地元高校生がPOPを作成し、推し本を並べる企画だったそう

 

フェアを担当された青柳力さんは、県内書店業界のベテラン。今回の話にも前向きにご参加くださったとのこと。用意された場所は、なんとマッサージチェアが並ぶ休憩コーナーの前。

マッサージチェアを使われるお客様は、この圧力を前に休憩できるのだろうか…

 

「エディションは、面陳の力があるんですよね」とにこにこしながら語る青柳さん。

 

青柳さんはこのお店を担当するにあたり、「少しずつ選本を増やしながらお店の個性を作っていきました」と語る

 

新しいエディションもさっそく陳列してくださっていた

 

エディションを始めとする松岡本は、今回のフェアをきっかけに初めて並べたというが、「土日に2、3冊買っていかれるお客様がいた」と青柳さんは手応えを感じている。スタッフのみなさんも売れ行きを気にかけてくださっているそうだ。

 

地域住民とすると、甲府昭和のイトーヨーカドーは、地元スーパーと比べ、少しだけエッジが利いていてほしいという密やかなニーズがある。それを踏まえ、「街の本屋さんでありながら個性を出したい」と青柳さんたちは日々工夫を重ねている。

山梨にゆかりのある人や出身の著者の作品をこまめに推すのが柳正堂のスタイル。山梨関連の本の取り扱いも多い

 

「猫」をテーマに本やグッズをぎゅっとまとめたコーナー。スタッフさんが工夫を凝らしたもの

 

柳正堂は創業当初、「誠実を基本とする正価販売」を唱える経営思想がメディアで広く紹介されたという。誠実にお客様に寄り添いながら、一歩先を提案していくスタッフの皆さんには、柳正堂書店のミームが宿っている。

 

文・写真:内田文子

 

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。