この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第26弾は山梨県甲斐市の敷島書房。フォトレポートを届けてくれるのはイシス編集学校師範代の内田文子さんです。
◇◇◇
商業が盛んな甲府駅南口に対し、北口は武田神社や大学が並ぶ文京地区である。
駅前には山梨県立図書館。史料や山梨ゆかりの著者の図書コーナーが充実、本を活用して「ETSやまなし」を開催した。
正面の瀟洒な建物は、敷島書房のある甲斐市敷島(当時は睦沢村亀沢)に建てられた旧睦沢学校校舎(国重要文化財)。1875年、当時の山梨県知事藤村紫朗が推進した擬洋風建築の建物で「藤村式建築」と呼ばれた。
右奥は、地元を代表するメディアである山梨日日新聞社・山梨放送グループの拠点である山梨文化会館。丹下健三氏の設計による建物。
左に佇むのは武田信玄の父、武田信虎の像。有力土豪層が割拠し乱国となっていた甲斐を統一し、甲府の城下町を開創するなど画期的な政策を推し進め、戦国大名・武田氏の基盤を築いた人物である。
敷島書房は、甲府駅北口から5キロほど西へ向かった街道沿いに建つ。車では通り過ぎてしまいそうな佇まいの町の本屋さんだ。
敷島書房の入口。セイゴオがぎらり睨みをきかせている。
小さな店内に足を踏み入れると、今度はダブルでセイゴオが睨みをきかせている。
エンドのスペースに情報がぎっしり。
店内奥には、南方熊楠や郷土史を研究している店長の蔵書コーナー。常連さんが手に取って、話が弾むことも。
店長の蔵書と子ども向けの本が「粘菌」で交差する。粘菌といえば、甲府在住の宮川大輔師範代の教室名「粘菌櫻座教室」を思い起こす。
熊楠最初の刊行本『南方閑話』を出版した坂本書店を興した坂本篤は、甲府の出身。数寄の情報を集めて関係線を引いて語るのが一條店長の特長だ。(店長の蔵書・非売品です)
文庫棚のいちばん目につくところに、エディションが全冊ぎっしりと収められている。
もともと、敷島書房で扱っていたエディションは3冊程度。今回、全エディションの内容を総覧して「全部置かなければ!」という使命感に駆られたと一條店長は力を込める。
関連書籍は書店のTwitterで紹介。Twitterを見て、エディションを求めて来店するお客様もいるとのこと。
一條店長(右)とお母様の富貴子さん。お母様が手にされた『本から本へ』で取り上げられた小川道明は、お母様のいとこに当たる方なのだそう。※撮影の時だけマスクを外していただきました。
人口80万人ほどの山梨県だが、1万人あたりの書店数は1.03と全国8位で決して少なくない。(日販『出版物販売額の実態2019』)多くが職住近接の山梨では、住宅街にぽつぽつと佇むこじんまりした本屋さんが地域の読書を支えている。甲斐市の敷島書房さんもそのひとつだ。
店長の一條宣好さんは、敷島書房の一人息子。お母様の影響で幼いころから民話に親しんできたという。大学卒業後はリブロに勤めたあと、実家の敷島書房に戻った。一條さんは、書店の経営のほか、郷土史研究家としても活躍されている。なかでも「ぼくのヒーローです」と語る南方熊楠に関しては、数々の論文も執筆したほか、2018年には店舗で「熊楠と猫展 in 山梨」を開催。お店の棚をひとつ空けて展示を行ったのだそう。
今回のイベントについては、「『知祭り』というキャッチフレーズがすばらしいですね!」と力を込める。売り場面積20坪と限られた面積では関連本はとても置ききれないが、Twitterでのフェア告知を見て、何人ものお客様が訪れているという。エディションを手すりに、新たな交流が広がりそうだ。
いっしょにお店を営むお母様の富貴子さんも読書家で、「松岡正剛さんといったらわたしはこの本が好き」といって取り出されたのが『フラジャイル』のハードカバー。発売当初の1995年に「弱さ」に着目した視点にわくわくしたと語る。
文・写真:内田文子
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。