【このエディションフェアがすごい!25】ジュンク堂書店 大阪本店

2021/07/16(金)13:59
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 「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第25弾はジュンク堂書店大阪本店。フォトレポートを届けてくれるのはイシス編集学校師範の網口渓太さんです。フェア開催期間は8月15日まで。

 

◇◇◇

 

 

大阪の人間には「本を読まない」イメージがついて回るらしい。読むよりしゃべる? 食べる? 騒ぐ? そのイメージを覆すのが、堂島アバンザの2・3階を占めるジュンク堂大阪本店。JR大阪駅から約8分ほど歩いたビジネス街にあります。

 

堂島は、江戸時代には諸藩の「蔵屋敷」が集中し、世界初の先物取引所「堂島米会所」があった、商都大阪の中でも古くから経済が栄えていた場所です。堂島アバンザのオープンスペースのベンチには、オフスタイルの老若男女に混ざってスーツ姿のビジネスマンもくつろいでいます。

 

 

水と緑で涼し気な裏庭には、ミラーガラスと石で構成されたボール型の建造物が。実はこの不思議な建物こそ、堂島のルーツとされる薬師堂です。諸説ありますが、堂島の地名の由来は「御堂のある島(中洲)」であったこととされています。アバンザ建設の際に現代的なビルと調和を図るため、リ・デザインされました。

 

この薬師堂に、木村蒹葭堂や山片蟠桃も大願成就を願っただろうか。ヅーフ・ハルマを抱えた緒方適塾の学生たちは? プラトン社の直木三十五も? 梅棹忠夫や小松左京や石坂泰三は万博成功を祈って?大阪に、知の系譜がないなんて、誰にも言わせない。

 

 

かつてさまざまな悩みを抱えた人が堂島に集ったように、今は入門書から全集まで揃うジュンク堂書店大阪本店に、本との出会いを求める人が向うといったら言い過ぎでしょうか。3階の専門書フロアでは、ビジネスマン向けの専門書から思想哲学、科学工学、意匠関連本まで、不足を埋める本が揃います。

 

編集学校学衆必携が一度に揃う棚 

 

上『感情史とは何か』『感性の歴史』『情動はこうしてつくられる』

下『中秋の秋』『すばらしい新世界』『わたしを離さないで』

人文、歴史、文芸をまたいで情動の端緒を問う展示。売り場の各所に、こうしたツワモノ書店員さんのこだわりのディスプレイが)

 

 

千夜千冊エディションフェアが開催されている2階は一般書とコミックのフロア。子供たちが喜んで入っていきたくなる絵本コーナーが設けられ、出版社のフェアがにぎやかに展開されています。アカデミックで図書館のような3階に対し、アットホームで町の公園のような雰囲気です。そんななか、際やかなエディション棚に行き交う人の視線が集まります。

 

 

 

青や緑の夏のフェア色のなかで、黒く渋い松岡校長のポスター。3つの棚が連なる千夜千冊エディションフェアにはイシス編集学校の赤いミニフライヤーも添えられています。

 

今回フェアの棚を担当してくださったのは文芸書担当の佐々木梓さん。いただいた名刺には「西日本文芸書ジャンルアドバイザー」という耳慣れない肩書きが。新規店の棚を一から作っていくときに図面を引いてレイアウトを考えたり、出版社の担当者が直接お店に出向けない地方の書店に代わりに本の情報を送ったり、研修をご担当されたり、古典から最新流行までが入り乱れる文芸のジャンルを「鳥の目」と「虫の目」でケアされているのです。フェアの棚も年間30件程を管理されています。

 

 

大阪本店のレイアウトを説明する佐々木さん。メイン通路にある新刊や話題書が並ぶ棚の裏側には、書店員さんこだわりの本が置かれているという仕掛けを披露。

 

 

 

そんな棚づくりに精通した佐々木さんはどんなことを意識してエディションの棚組みをされたのでしょうか。各棚の一番端には千夜千冊エディションが置かれ、水平方向に関連本が連なります。目線の高さ、ど真ん中の棚で目立つのは『感ビジネス』。ナシーム・ニコラス・タレブの『ブラックスワン』とレナード・ムロディナウの『たまたま』が並びます。「メイン客層であるビジネスマンに響くようにいいところに置かせていただきました。千夜千冊エディションは巻が目立たないので、意図的に棚の順番を決めてます」という佐々木さん。

 

となりの『本から本へ』の棚では知的探求心に刺さるテーマの本をラインナップ。千夜千冊をはじめて知るお客様にもフェアの棚をきっかけに読書の幅を広げていただきたいので、文庫や新書になっているベーシックな関連本を中心に棚を組んでいるそうです。2階に訪れるお客様の目線でありながら、3階にありそうなジャンルの本へも関心を促す、佐々木さんのプロフェッショナルなナビゲートです。コミックを買いに来た学生の中から令和の山片蟠桃や小松左京が生まれるかもしれません。

 

フェア棚の中で佐々木さんの好きな一冊はダン・アリエリーの『予想通りに不合理』です。ずっと売れているのを日々みかけただけあって愛着があるのだとか。好きな千夜千冊エディションは、しっかりと読んでみたい分野なのでと選ばれた『芸と道』。今月発売予定の『資本主義問題』も気になっているようです。メイン客層の注目度も高そうな内容ですから、刊行後のフェアの棚も見逃せません。棚を作りながら、テーマの知の基本と本質的な部分を押さえられそうな本を選びつつ、意外かもしれないけれどさらに深い学びに入っていける本を入れている千夜千冊エディションの特徴に気づかれたとか。佐々木さんご自身も、一般の方に向けたメインの棚、こだわりを加えたサブの棚と、棚にメリハリをつけるよう心掛けているそうです。本棚をつくる佐々木さんと本をつくる松岡校長の姿が重なった瞬間でした。

 

 

取材後、カメラ担当の野嶋番匠と裏庭の薬師堂へ。コロナ退散と千夜千冊エディションフェア繁盛を祈願しました。

 

文:網口渓太

写真:野嶋真帆

 

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。