この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第24弾は長野市のch.books(チャンネルブックス)。フォトレポートを届けてくれるのはイシス編集学校師範代の福田恵美さんです。フェア開催期間は8月31日まで。
◇◇◇
ドアを開けたら、いきなり松岡校長がバーンと正面に。「だれ? なに?」とインパクト大。千夜千冊20冊突破記念フェアは7月3日からスタート。また何という偶然でしょうか、7月2日に開店10周年を迎えたところで(おめでとうございます!)、まさに10周年記念フェアともなっています。
●長野市はリノベーション集積地になりつつある
長野市と言えば善光寺。ですが、2010年代から界隈の門前町がリノベーションによって生まれ変わった建物の集積地となってきています。「古き良き未来地図」という小冊子があります。それを見ても、門前を中心にしたあちこちに古民家リノベでカフェやショップができていることがわかります。そのほとんどのお店の担い手は若者たち。チャンネルブックスも、築90年の三軒続きの町家のひとつに入居した、古民家リノベの一例です。
●チャンネルブックスとは
デザイナーの青木さんと編集者の島田さんによる「旅」と「アート」をテーマにした新刊書店&編集・デザイン事務所。青木さんと島田さんは長野市内の出版社で一緒に仕事をしていました。締め切りに追われて寝る間もないほど多忙な日々のなかで青木さんが「本屋をやりたいな」と言い出して、そろそろ「ちゃんと寝る」&「ちゃんと(アイディアを)練る」仕事がしたいねということで、「寝る」と「練る」を掛けて、「チャンネルブックス」を立ち上げたのだそうです。
島田さんは出版社勤務の前に、沢木耕太郎の『深夜特急』に触発されて、香港を皮切りに2年間の世界放浪の旅を敢行。アジアから中東、ヨーロッパ、そして南米へ。「ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン、ブラジル…キューバも行きましたよ」「日本に帰ったときには、日本って平和だなと思ったのと、人間どうにでもなると思った」と肝っ玉の据わった、かつチャーミングな女性編集者です。
三軒長屋の町家を改装したお店の2階は様々な紙媒体の編集室で、ここは「本屋」と「編集」と「人」の三つが相互に連環、触発しあう場になっています。
築90年の三軒長屋の真ん中
通りがかってセイゴオ、中を覗き込んでもセイゴオ。
ばーんと松岡校長が飛び込んでくる
旅とアートがテーマのチャンネルブックス。島田さんの原点『深夜特急』も。
暮らしや道具の選書も
古民家を改装した、ちっちゃいけど心地よい雰囲気
ゆっくり好きな本が読めるソファ席も
平日朝と土日はカフェ営業も。雨に降られたらここでゆっくり本を読むのもよし。人気メニューは鉄分スコーンと季節の果実の果実酢サイダー。鉄分スコーン?ぜひ名前の由来はスタッフにお尋ねを。
猫のいる本屋なので、猫ポップ。めっちゃかわいい。
島田さん、青木さんに聞きました。
――10周年の感想は?
10年間はあっという間でした。お客さんは案外若い人じゃなくて、同世代や年配の人が多いよね。イベントも色々やりました。満月の日にワインがおいしくなるという逸話にちなんだ満月の夜のワイン会「満月酒り場」というワインイベントは50回まで開催しましたが、よくやったよね。
――どんな本が売れるんですか?
本屋は「旅」と「アート」がテーマだけど、案外暮らしの本やサブカルの本も売れます。自分が読みたくて仕入れた本が、直ぐ売れちゃいますね。
――フェアをやろうと思われた理由は?
4月から店内に新たに特集コーナー的な棚を設けたので、それを生かしたいなと思っていました。また、今まであまりこういう本屋らしい(?)企画をやったことがなかったので、せっかくお声がけいただいたので、やってみようと。
――松岡正剛についてはどんな印象を持たれていますか?
知的好奇心が旺盛で常に精力的に活動し、長文に対する価値観を大切にしていて、独自の哲学とスタイルを確立しているがゆえにコアなファン(特に男性ファン)が多い印象(なるほど!校長は男性にモテるのかー)。
「今回のフェアは、100冊を注文しているけれど、まだ1/4しか揃ってなくて…」と恐縮されましたが、だんだんフェアの棚が生き物のように育っていくのも楽しいもの。数日すれば100冊が勢ぞろい、さらに存在感がグンと増すことでしょう。サブカル寄りの選書になっていて、どんな人がどんな本を手にとっていくのか、興味津々です。
安藤昭子さんの『才能をひらく編集工学』も置いてあって、「これ、わかりやすいんですよね!」「そうそう、編集工学がすっと入ってきますよね」と、島田さん青木さんと盛り上がりました。そんなお二人のおすすめは『サブカルズ』。(やっぱりね!)
そうそう、チャンネルブックスは、猫のいる本屋。2匹の猫がもそもそ歩き回ったり、本の上でのんびり寝そべったり。だから、手書きポップも猫ポップ。繰り返しになりますが、それがやたら可愛い! 「あ、猫の本はやっぱり売れますね」。新しい読者を獲得してくれるのではと、大いに期待をしています。本が揃った頃に、また伺います!
これからどんどん本が揃います。
ギンズバーグと石田梅岩がいっしょにいる!
本の並びも美しい!
猫もフェアに参加中
おすすめは『サブカルズ』、編工研の安藤さんの『才能をひらく編集工学』も。
丸まる2か月、あなたもチャンネルブックス流の「知祭り」へ!
文・写真:福田恵美
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【このエディションフェアがすごい!07】ブックセンタークエスト小倉本店
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【このエディションフェアがすごい!02】ジュンク堂書店福岡店
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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コメント
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。