この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第13弾は長野県小布施町のスワロー亭。フォトレポートを届けてくれるのはイシス編集学校師範代の福田恵美さんです。フェア開催期間は6月19日~9月27日まで。
◇◇◇
長野県小布施町は人口11000人、4km四方の長野で一番小さい町、でありながら観光客を100万人以上(コロナ前)集め、「小さい町」を自慢にしているちょっとヘンな町でもあります。
小布施も一時は過疎に悩む町だったといいますが、今や全国的知名度抜群なのは、葛飾北斎の北斎館をはじめ「栗と北斎と花の町」という巧みなプランニング編集術のおかげであり、古き良き町並みを現代に生かした町づくりに、町民と一体になって取り組んでいるからです。
小布施の町づくりの特徴は、ひとつは「混在性」。当時の都市計画は住宅や商業ゾーン、工場ゾーンなどを区分けした計画が主流だったのが、「それでは住んでる人は楽しくないよね」と、住まいや店や工房が混在したまちづくりに注力したといいます。そして、「町並み保存」ではなく「町並み修景」。古いものを生かしつつ、現在のいいものも否定しないという、「生活する町」を作り上げようとして、もう40年。
結果、古い建物が素敵に快適に蘇り、石畳ならぬ栗の木畳がそこここにあり、通り抜けできる小径が随所にあって、お店の中まで通り抜けできる!オープンガーデンで、ひとさまの素晴らしいお庭も拝めるという、街歩きのめちゃめちゃ楽しい小布施が出来上がってしまったのでした。
町歩きの楽しさだけでなく、2001年から144回開催した文化発信イベント「小布施ッション」(2013年に終了)、「小布施見にマラソン」など、町内外を巻き込んだユニークなイベントも開催されてきました。北斎ホールでは折々に質の高いコンサートが聴けるとか。コトにも事欠かないのが小布施、コロナ後、次はどんな仕掛けが?と期待が膨らみます。
小布施のミュージアムと言えば北斎館。
「あやしい浮世絵」!それだけで中に入りそうになります(笑)
北斎を小布施に招いた人、高井鴻山の記念館。
これはお菓子屋さんの脇を通り抜けられる小径。甘い匂いが漂い、 お菓子を作っている様子をチラ見しながら通り抜けます。
お店の中も通り抜け。「通り抜けいいですか?」「もちろん!」
6月が栗の満開の時期なんですね。栗の満開、初めて見ました。
小布施の食のレベルは高い。レストランもそうですが、こういう、すごくちゃんとしたブーランジェがあるのが素晴らしい。
ヨーロッパに倣ったそうですが、オープンガーデンも、一軒一軒お願いして、実現したそうです。お庭拝見。
お庭を見ようと中に入ると、新緑の美しさにやられてしまった!
桝一市村酒造場入口、木桶と酒づくりのビジュアル、ふふふと笑ってしまう。
スワロー亭さんは、そんな小布施の真ん中、おぶせミュージアム・中島千波館のお向かいにあります。
リンク:http://www.enyusha.com/swallow.html
本とCDと服と、読書スペースと。何時間でも本を読んでいたくなるような、居心地のいい空間です。
美術館のお向かいの位置にあり、ナチュラルで知的なオーラ全開。
ウインドウに知祭りポップが!
木の枝の「BOOKS」が手作り&ナチュラル感いっぱい
この窓際では一人静かに。別に大テーブルもあり。
お二人の店主の趣味がうかがわれます。
実は店主の奥田亮さんと中島敏子さんは、お二人ともイシス編集学校の初期のころの師範代を務められた、松岡校長とは旧知の間柄。ご縁を頂いてフェアのお願いに伺いましたら、二つ返事で快諾いただきました。
展開は奥の書棚かなと思っていたら、なんと、入ってすぐ、奥に目を向けますと、ばーんと20冊がずらりと並んでいます。情報の歴史ももちろんあり、手書きポップも素敵。
泣けたのは、編集者である中島さん、デザイナーである奥田さんがちゃっちゃとつくられたこの案内(スワロー亭独自のフェアミニリーフ)。さすがです!
編集工学の創始者、松岡正剛が
2000年2月にスタートした
ブックナビゲーションサイト「千夜千冊」。
古今東西の本を縦横無尽に
すくい、つなぎ、かさね、あわせて
つづったセイゴオの編集世界。
1000冊達成後、今もなおつづく知の暴走。
その「千夜千冊」を新たに編集した
角川文庫『千夜千冊エディション』シリーズが
2021年4月、第20巻を刊行。
これを記念して今夏、全国の書店で
松岡正剛『千夜千冊エディション』
20巻突破記念フェアを開催。
既刊シリーズ20巻をはじめ
松岡正剛の著書、
千夜千冊に取り上げられた本、
またそれらの関連本を集めて
多彩なフェア展開中。
スワロー亭も長野県内では数少ない
フェア参加店のひとつとして
千夜千冊エディションコーナーを
立ち上げました。
あらゆるジャンルをまたいで
世界の本を渉猟していく千夜千冊。
この機会に好みの入り口から一歩、
知の宇宙へ踏み込んでみませんか。
ズラリ勢ぞろい、一冊一冊にポップ付き。それをじっくり読みながら自分に合う一冊を選んでほしい、という思いが込められています。
『情報の歴史』はもちろん、小冊子、そして古書で集めた松岡本、関連本が並びます。
お二人のお宝、松岡校長サイン本。「小布施でひたむきに」という言葉とともにお二人の励みになっている
なんと、「この20冊、ぜんぶ頂戴」と、フェア前に20冊まとめてすでに大人買いされた方がいらっしゃったそうです。さすが小布施、文化度高し。古書店ですので、松岡本など関連本を、古書で少しづつ集めていきますとのこと。9月27日までのロングランなので、「途中で模様替えしていかないとね」。キーブックを中心につながり本を置いていこうかなどなど、色々アイディアが膨らんでいました。
ちなみに奥田さんはひょうたん楽器を自作・演奏する音楽活動を長年続けています。ひょうたんと言っても大小さまざまで、ひょうたんオーケストラもできるんだそうです。コロナ前にはお店でも不定期でライブをやっていました。これからも乞うご期待!
そんな奥田さんのおすすめエディションは「サブカルズ」と「芸と道」。中島さんのおすすめは「仏教の源流」と「宇宙と素粒子」。
松岡正剛に馴染みのある方もない方も、お好きな一冊から手に取っていただきたい、そんな思いの滲み出ていたフェア初日でした。常連さんも多いようで、「この本よさそうですよ」とお客様にあわせてお勧めもされていました。
びっくりしたのは、非売品ですが「帝塚山講義録 松岡正剛編集セカイ読本」シリーズ。はじめてみた(!)、15冊セットでした。さすが1桁代の師範代店主!
文・写真:福田恵美
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。