この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

数寄を、いや「好き」を追いかけ、多読で楽しむ「大河ばっか!」は、大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブです。
ナビゲーターを務めるのは、筆司(ひつじ)こと宮前鉄也と相部礼子。この二人がなぜこのクラブを立ち上げたのか?それは、物語好きな筆司たちが、過去の大河ドラマを編集工学の型によって紐解き、その魅力を分かち合いたいという思いからです。
大河ドラマを支えたスタッフにも、またドラマあり?! 裏側を教えてくれる本をご紹介します。
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「村八分」。仲間外れを意味する言葉だ。この言葉を知るきっかけは大河ドラマ「花神」だった。1977年放送、司馬遼太郎原作のこのドラマは、日本近代兵制の祖である村田蔵六(のちの大村益次郎)を主人公とする。蔵六が学んだ適塾の創設者・緒方洪庵の通夜の晩、攘夷論を唱えたことから、同塾の塾生だった福沢諭吉が「あいつを相手にするな」と触れ回ったことによる。小さかった私は、父に「村八分ってなぁに?」と聞いた。父が辞書をひけ、と言ったので眠い目をこすりながら-なぜなら日曜日の夜8時45分は、当時の私には相当に遅い時間だったから-、辞書を引いて村八分の意味を知った。
大河ドラマが歴史に近づく一歩になった、という人が多いのではないだろうか。もし「花神」を見ていなかったら。靖国神社の参道どまん中に立つ大村益次郎像を「なんだろう、これ」としか思わなかったに違いない。失礼を承知で言うならば、幕末を飾る綺羅星のような志士たちの中ではどうしても、一段華やかさに欠ける人物だからだ。
では、なぜ彼が取り上げられたのだろうか。春日太一『大河ドラマの黄金時代』の中で、「花神」のセカンド・ディレクターを務めた村上佑二は、大村益次郎を「まったくそれまで日本になかったリーダー像」だと言った。原作者・司馬遼太郎の「知識を持った一種のテクノクラート、技術官僚が明治維新を制したという見方」を極めて珍しい維新論だとして興味が湧いたと語っている。スタッフの興味が、新しい維新像を生み出すことへとつながったのだ。
大河ドラマに関わってきたスタッフ達の証言を通じて、長く続いているからこそ、挑戦も失敗もあり、また失敗を越えた新たな挑戦が続いてきていることがわかる。「花神」は視聴率は振るわなかったものの、司馬遼太郎は傑作だとしてほめたそうだ。「人間が土足で上がってくるようなところがいい」のだと。歴史がずかずかと動き出し、息づかいをリアルに感じることができる作品だったからだろうか。
何年も経って、靖国神社参拝の折、参道で像を見上げた時、主役を演じた中村梅之助の少し錆びた声が耳に甦ってきたことが忘れられない。
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多読アレゴリア「大河ばっか!」では、このように編集工学の視点から大河ドラマを深く読み解いていきます。クラブ内で語り合いながら、登場人物の成長や葛藤、物語に隠されたテーマを掘り下げ、大河ドラマに流れ込む豊かな支流を一緒に生み出していきましょう。どうぞお楽しみに!
多読アレゴリア「大河ばっか!」
【定員】20名
【開講日】2024年12月2日(月)
【申込締切日】2024年11月25日(月)
【受講費】月額11,000円(税込)
*2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、
2クラブ目以降をお申し込みください。
【開催期間】2024冬 2024年12月2日(月)~2025年2月23日(日)以後順次決定
お申し込みはこちらから
https://shop.eel.co.jp/products/detail/765
アイキャッチ画像:大河ばっか!×山内貴暉
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音づれスコア:Coming soon
相部礼子
編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。
【多読アレゴリア:大河ばっか!②】「大河ばっか!」の源へ(キャラクター・ナレーター編)
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。