この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

豪徳寺は大神輿渡御の準備で賑わっていた。世田谷八幡宮の例大祭の只中、赤堤通りに立つイシスにも編集工学神輿が出現。第82回感門之盟も2日目、編集モンスターを出すための魂振りも佳境に入る。第50回目の突破式が始まった。
ボリュームのあるスカートのドレープを翻し、エレガントに舞台に立ったのは原田淳子学匠。秋を迎えた日にふさわしい、優しい色合いだ。黒いブラウスに虹色のイヤリングが映える。大ぶりで、少し歪なベネチアングラスだ。これは学衆への華向けでもあろうか。ゆるやかに息を吐くような発声が、緊張していた場の空気を一瞬で柔らかく変える。
学匠の話は、最近、世の中を賑わすAIの話で始まった。
■ 世の中をイキイキさせる編集の力を信じる
これまで絶妙な間合いを大事にしてやってきたことが、高度に機械化されてきた。これからヒトを超えると言われるこれらのツールは、使うと楽なのだ。しかし、全て受け入れていくとSFにあるようなディストピアになってしまう。これには抗いたい。原田は、その答えが『編集』だと続ける。デモンストレーションを目指して破の稽古を通じて得た編集力は、世の中をイキイキさせる力だ。獲得した力は、新しい意味や価値を見出すことができるもの。
50破の師範代は、12名中8名が子育て真っ最中だった。日常を編集していく、編集を人生にしていく覚悟でロールを引き受けた強者たちだ。自分にお題を課すのも編集を続ける秘訣。突破したばかりの学衆は、そこまでは難しいと思うだろうか。
原田は、ここで自身の方法を明かした。
■ お気に入りの方法を自分のルールにする
破の最初の稽古である5W1H+Doの実践を毎日の自分のルールとしている。「いいね」や「だめ」だけではなく、どのようにいいのか、を常に伝えてきたのだと。人に親切にしてもらったとき、お土産をもらった時、子どもの工作やピアノの演奏を誉めるとき。どうよいのかを同時に伝えると、聞く人が喜ぶ。そうしていると、次第に信頼が醸成され、意見を求められるようになる、とも。
突破後、世界の見え方は変わる。方法を携え、学匠からとっておきの実践例を受け取った今なら、自ら編集の旅に発てるはず。その一歩、一滴が波紋となり、世の中を変えていくことができる。
原田は、次のステージへ向かう50破の面々に「日常と編集を分けないで、編集を人生していってほしい」と結んだ。
安田晶子
編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。